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デスコ「初めましてデス、おねえさま!」 【後編】

2014/03/28 14:36 | CM(0) | その他 ディスガイア SS


デスコ「初めましてデス、おねえさま!」 【前編】



187 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:43:47.68 ID:cZac6lmD0

◆   ◆   ◆

エミーゼル「デスコ、どうした、顔色が悪いぞ?」

デスコ「……ッ! いえ、大丈夫デス。急ぎましょうデス」

フェンリッヒを戦闘に、ヴァルバトーゼ一行は時空の渡し人のゲート前に集まっていた。その一番後ろに立つデスコの表情は、大丈夫とは言ったものの、やはり暗く硬い。フーカを救う為の重要な出陣であるにも関わらず、その様子はどこか危なげにも見える。

エミーゼル「おい、デスコ、お前やっぱり休んでた方がいいんじゃないか? お前だってフーカの傍に居た方がーー」

デスコ「大丈夫デス。今度こそ、おねえさまは、デスコが、自分で助けてあげたいんデス……」

エミーゼル「そ、そっか。でも、あんま無理すんなよ? これから行こうとしているところは、生半可な力じゃ太刀打ち出来ない奴等が居る所なんだからさ」

デスコ「ええ、分かってるデス……」




188 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:44:32.55 ID:cZac6lmD0
デスコの耳には、エミーゼルの言葉もあまり届いては居なかった。頭の中ではただフロンとの会話が反響する。

どこで物語はこのように歪曲してしまったのだろう。ただ自分は、皆と、姉と、楽しく過ごしていたかっただけなのに。
けれど、もう後戻りの出来る道などない。進む道もまた一つしかない。どのような道を辿っても、行き着く先が悲劇であると言うのならば――

デスコ「デスコは、おねえさまが笑っていれば、それでいいのデス。……たとえ、その隣に居るのが、デスコじゃない誰かでも」

空間が曲がり、時空の扉が開かれる。五人の身体が、その向こうへと消えた。



189 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:47:32.40 ID:cZac6lmD0

◆   ◆   ◆

ヒーラー「フロン様……。もう、あれ以外方法は無いのですか?」

眠るフーカの頬を、慈愛の表情で撫でるフロンに、ヒーラーが尋ねる。彼女の耳には、まだデスコの絶望の声が痛々しく響いていた。

ヒーラー「ええ、これが唯一にして、最善の策。そして、私が最初から考えていたものです」

ヒーラー「フーカさんの記憶を、この世界に来る前のもの――つまり、『死の瞬間』以降の記憶を全て消し、『生前の風祭フーカさん』へと戻す。それが、あなたの考えていたシナリオですか……」

フロン「ええ、彼女が消してしまいたいと思っているものを、こちらで全て消してしまえば、それで解決です。けれど、記憶の消去と言うものは、簡単に出来るものではありません。ましてや、一部の記憶だけを完全に消し去ることなど。けれど」
 
フーカの髪をそっと掻き上げ、ヒーラーに目を向けた。

フロン「この子は一度死んでいます。現世と冥界における肉体の線引きがはっきりとされている。生前に培われたものと、死後に培われたもの。この二つは繋がっているようですが、そこには1と0の超えられない線が存在する。
    ……私にとっては、非常に都合がよかったです。フーカさんが生者であったならば、全ての記憶を壊さなければいけなかったでしょう。けれど、この子が死者であるからこそ、その間の記憶だけを消し去ることが出来る」

ヒーラー「ですが……それでは」



190 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:52:37.57 ID:cZac6lmD0
フロン「ええ、勿論、この世界で体験した記憶は全て――つまり、デスコさんは勿論、皆さんのことも、全て忘れてしまいます。先程、デスコさんに言ったように」

ヒーラー「…………」

まるで何事も無いように、フロンは言い切った。その言葉が、どれだけデスコの心を切り裂くか知っていながら、それでもフロンは伝えたのだ。
けれど、ヒーラーは、その様に、怒りでは無く哀しみを覚えた。

感情無く本人は言っているつもりなのかもしれない。けれど、その微笑を浮かべた瞳は昏く、目の下に見える僅かな隈。僧侶であるヒーラーには、その姿が見えている訳ではない。けれど、その言葉を口にすることが、どれだけフロンの心を壊したのか、それはありありと感じることが出来た。
そして、それを分かったからこそ、デスコもまた、彼女の言葉に身を裂かれながらも、その言葉を受け止めていたのだろう。

ヒーラー「……フロン様、何故、あなたはそこまで自分一人で抱え込もうとするのですか?」

ヒーラーの言葉に、フロンは目を瞑って首を振った。

フロン「……抱え込めてなんかいません。今私は、自分のエゴの為に、沢山の人を巻き込んで、物語を悲劇にしてしまった。これはもう、変えようの無い事実です」

フロンが右手をふわりと上げる。その掌の中に、美しく輝く虹色の珠が浮かんだ。

フロン「これが、その証です」

ぎゅっ、とフロンがその手を握り、光が消える。変えようの無い事実、それは、還らない命のこと。彼女の手の中に握られた、天使兵たちの魂の欠片が、何よりそれを物語っている。

フロン「私は、悲しみは上書き出来ると思ってました。フーカさんがどれだけ酷い目にあっても、私は最後に、ブルカノを制して、フーカさんの記憶を魂の根幹から消してしまえば、それで済むものと思っていたんです。……今思えば、なんて短絡的で、自分勝手なものでしょうね。けれど、それが最善だと思っていました。過ぎた時は戻ることは無く、フーカさんが穢された事実もまた消えることは無い。けれど、上書きは出来る」

ヒーラー「……あなたには、その力があるから、ですか」



191 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:55:10.55 ID:cZac6lmD0
その質問に、フロンは笑顔で返す。

フロン「『生者の記憶』の消去はたしかに困難です。一歩間違えれば、廃人にしてしまう危険もある。けれど、『死者』を相手であれば、大天使である私には、そう難しいものではありません」

笑って、そう言ったフロンに、しかしヒーラーは違和感を覚えた。

ヒーラー「……では、では何故ヴァルバトーゼ様たちにあんなことを? 何故、魔王の血を集めるなどと――」

そこでヒーラーは気付いた。否、気付いてしまった。

ヒーラー「まさか、フロン様、あなたは……」

フロン「本来、この子は地獄に堕ちるべき存在では無かった。いえ、命を落とす存在でもなかった筈です。もしその命を掬い上げられるとしたら……。それが、私が、この子に出来る、唯一の贖罪になるのでしょう」


ヒーラー「……それで、喜ぶ人がいると思っているのですか?」


192 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/03(月) 19:58:32.88 ID:cZac6lmD0
僅かな沈黙を挟み、思った時には、既に口にしていた。フロンが、その言葉に傷つかぬ訳がないだろうに。
ほんの一瞬、フロンの身体が震える。しかし、晴れやかな笑顔を向けて、首を振った。

フロン「ごめんなさい、全部、忘れて下さい。あなたが十字架を背負う必要はありません」

ヒーラー「……何故、あなたはそうも――」

言葉は途中で途切れた。僧侶としての道を歩み始めたときから、自分の目を開いたことは一度として無い。けれど、それでも、眼前に佇む彼女の身体を包む哀しさは、もうずっと、痛い程に感じている。

ヒーラー「あなたの姿は……世界中の哀しみをその背に負っているかのようです」

フロンが立ち上がり、ヒーラーの頭を撫でる。

フロン「同じようなことを、側近の天使兵の方にも言われたことがあります。けれど、私はそこまで強くありません。私の手は小さく、そこで受け止めることの出来る哀しみも、憎しみも、ごく僅かなのです。出来ることなら、私は全てを受け止め、そして背負いたい」

ヒーラー「けれど、そうなっても、あなたはただ、黙って笑うだけなのですね……」

フロン「それが、大天使として、私に与えられた使命ですから」


静かな部屋の中、ヒーラーの嗚咽が微かに聞こえた。


196 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:40:34.78 ID:fhWBre0d0
◆   ◆   ◆

エミーゼル「ここは……――っ!」
 
エミーゼルが言いかけた時、一筋の風塵がまった。視界が暗いのは、この魔界の時間が夜だからだろう。
その中で、橙色の朧げな光が無数に見える。それと同時にその光を放つ造形物の輪郭が、はっきりと見えて来た。
歪な塔がいくつも連なった、まさに悪魔らしいと言える造形の城。

フェンリッヒ「あれが魔王城です。この魔界を支配している悪魔の名は――」

フェンリッヒの言葉に、ヴァルバトーゼが軽く頷く。

フェンリッヒ「一度勝った相手とは言え、ここは奴のホームグラウンド。手下も多く居ることでしょう。用心して行きましょう」

ヴァルバトーゼ「ああ、しかし悠長に行く時間も無い。急ぐぞ」

ヴァルバトーゼが言い、全員が唇を結び頷く。

巨大な魔王城の麓に、五人の影が飛び込んだ。



197 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:42:39.29 ID:fhWBre0d0

アルティナ「これは……」

エミーゼル「え、なんだこれ……」

フェンリッヒ「まさか……罠なのか? いやしかし……」

デスコ「みんな、倒れているデスね」

ヴァルバトーゼ「むう……」

五人がそのような反応をしたのも無理は無い。魔王城に潜入した時から違和感を感じていた。見張りもおらず、衛兵一人として見かけない。
侵入が察知されているのかと警戒しつつ歩みを進めたが、いっこうに魔王城側に動きが見られなかったのだ。

そして通りがかった広間でこの様を見て、言葉を失くした。

魔王城の手下であろうプリニーたちが、皆眠りについていた。いや、それは眠りにつくと言う上品な言い方より、『酒をかっくらって寝ている」と表現する方が正しいだろう。
広間からはプリニーたちが呑み散らかしたであろう酒瓶が無数に転がっていた。



198 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:45:45.96 ID:fhWBre0d0

アルティナ「なんでしょう、今日は宴会でもあったんでしょうか?」

エミーゼル「いや、それにしたってこの様はどうも……」

ヴァルバトーゼ「……許せんな」

フェンリッヒ「閣下?」

ヴァルバトーゼ「誰だ! このプリニーを教育した者は! 使えるべき主の城で警備もろくにこなさず酒を呑んで寝ているとは! プリニー教育係として、俺はこんなプリニーが存在することが恥ずかしいぞ!」

デスコ「こ、こんな時でもヴァルっちさんはブレないデスね……」

アルティナ「ま、まあここは好都合と見るべきでしょう。早く玉座の間に行って目的を済ませましょうよ」

ヴァルバトーゼ「くっ……! いいか、魔王城のプリニー共! 全てのことが終わったら必ず再教育してやるからな! 覚悟しろ!」

プリニー「うう……ん……? な、なんだか寒気がするっす……むにゃ」

 「で、目的ってなんのことー?」

 「!」

突然聞こえた声に、全員が振り返る。

フェンリッヒ「馬鹿なッ……! ここまで接近するまで気配を感じさせないとは……!」

ヴァルバトーゼ「流石は魔王の腹心と言った所だな、魔神エトナ」

エトナ「あ、なんだバレてたんだ、流石殿下やアタシにまぐれとは言え勝っただけはあるねー」

暗闇の中から、赤毛の少女、魔神エトナが姿を見せた。



199 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:48:30.18 ID:fhWBre0d0

魔王ラハールの腹心であり、この魔界に置ける、実質的なNo.2。魔神を名乗っては居るが、その魔力は、魔王の持つそれに間違いなく匹敵する。
その力は、先に起きた『異常事態』に、ヴァルバトーゼたちも十分に味わっていた。

エトナ「で、何か用? そのサマだと、こっちに暑中見舞いを申し上げに来たって訳でもないでしょ?」

軽い口調に不敵な笑みを浮かべてはいるものの、その目は笑っていない。確実に向こうも警戒を含んでいることは、背に隠し持っている槍からも感じ取れていたが――

ヴァルバトーゼ「…………」

エトナ「……ま、無闇に他所の魔界にまで戦争しかけてくる奴じゃないわよね、アンタらは」

そう言って背に持った武器を下げた。

エトナ「大方、そこに居ないプリニーもどきの子絡みでしょ? 来なさいよ、殿下に用があるってんなら、玉座の間まで案内するからさ」

そう言い、背を向けて歩き出すエトナに、エミーゼルが慌てて続く。

エミーゼル「お、おお、何か前にあった時より物わかりが言いっていうか、意外に親切だな」

アルティナ「み、皆さん、早く行きましょう」

フェンリッヒ「……閣下、罠と言うことも――」

ヴァルバトーゼ「行くぞ。俺は信じる。仮にも、あの大天使の友人だ」

フェンリッヒ「……はっ、すべては、我が主のために……」

デスコ「ええ、行きましょうデス。どのみち、進まなければおねえさまは助けられないデス」



200 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:52:07.16 ID:fhWBre0d0

エトナ「殿下ー、起きてますか殿ー下ー?」

 玉座のまでエトナが緊張感の無い声で言う。しかし返事は無く、エトナは軽くため息をついた。

エトナ「ったくあのジャリガキ、魔王たるもの、早寝早起きはしないとか言ってる癖に、もうとっくに寝てんじゃない。あ、ちょっと待っててね、殿下起こしてくるから――」

そう言い、右手に持った紅い槍をくるくると回しながら、エトナの姿が玉座の間の奥にある扉へ消えた。
そして、

エトナ「起きろってんでしょがこのクソガキャ――――――ッ!」

ありとあらゆる兵器が奏でる破壊音が魔王城に響き渡った。

エミーゼル「お、おい、あいつ何してんだよ!?」

デスコ「寝込みを襲おうとしてるんデスか、流石は悪魔デスね」

アルティナ「って言ってる場合じゃありませんよ! もしその魔王さんが死んでしまったら――」

「うるさ――――――――いッ! このオレ様を誰だと思ってるかあッ!」

爆音と共に、奥の扉から棺桶の蓋が飛んで来た。

エミーゼル「うわっ、あぶなっ!」

すんでの所でエミーゼルがそれをよけ、壁に叩き付けられた棺桶の蓋が豪快な音を生み出した。続いて小走りでエトナが部屋から出て来て、ヴァルバトーゼたちの後ろに素早く身を隠した。

そして最後に出て来たのは、

「エトナ――――ッ! またお前かッ!」


青い二本の触覚、小柄な身体に赤いマフラー。――この魔界の支配者、魔王ラハールの姿がそこにあった。


201 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:55:44.20 ID:fhWBre0d0
ラハール「お前は毎回毎回、このオレ様を殺す気かッ!」

エトナ「人聞きが悪いですね、殿下。殿下の強靭な肉体なら、こんな攻撃なんともないはずでしょう? 事実傷一つ無い! 流石殿下!」

ラハール「む、ま、まあな。たしかにオレ様ともなればこのようなオモチャの攻撃など取るに値しないが、そう褒めるな」

エトナ「アホは扱い易くていいわー……」

ぼそっ、と呟いたエトナの言葉に、エミーゼルとアルティナは思わず苦笑いを浮かべた。

ラハール「む、お前らは確か、別魔界の……ヴァルバトーゼか」

そこでようやくヴァルバトーゼたちの姿を認識したラハールが、不敵に笑い、二本の触覚をぴんと伸ばした。

ヴァルバトーゼ「久しいな、魔王ラハール。挨拶も無く押し掛けるようで悪いが」

ラハール「フン、悪魔にそのようなものは無用だ。襲うなら寝込みでもなんでもいつでも構わぬ。オレ様は堂々と受けて立ってやる!」

ヴァルバトーゼ「流石だな、だが、生憎俺たちがここへ来たのは戦争の為ではない」

ラハールが訝しげに眉をひそめる。

ラハール「ではなんだ? 支配者と支配者が顔を合わせる時は、戦争が起こる時だけだろう」

アルティナ「いえ、平和の調印式などもあると思うのですが……」

エトナ「ったく、殿下鈍いですねー。なーんか今日のこの人たち、人数が足りないとか思わないんですかー?」

ラハール「む……そう言えばあのプリニー娘がおらんな」

ヴァルバトーゼ「ああそうだ。フーカの為、お前の血が欲しい」

ラハール「オレ様の血だと?」

そこでエトナがああ、と手を叩く。

エトナ「にゃーるほどねー。昔フロンちゃんと同じようなことした記憶があったわ。殿下が幼児化しちゃって……」

ラハール「オレ様が何だって?」

エトナ「や、なんでもないです、ハイ」

エトナ(流石にこれをきかせたら、殿下この世界を滅ぼすかもしれないしね。黙っとくのが一番だわ)


202 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/04(火) 23:58:58.43 ID:fhWBre0d0

フェンリッヒ「時間が無いため簡潔に説明する。俺たちの仲間の小娘が、今非常に危険な状態にある。その治療をするために、『魔王の血』が必要なのだ」

ラハール「なるほどな、それでオレ様の下にやってきたわけか。……ククク、ハァーッハッハッハッハッ!」

デスコ「何がおかしいんデスか!」

掴み掛かったデスコを、ヴァルバトーゼが制止する。

デスコ「……ッ! ヴァルっちさん!」

ヴァルバトーゼ「魔王ラハール、事態は一刻を争うのだ。お前の血を譲って欲しい」

ラハール「別魔界の支配者ともあろうものが、小娘一人のためにご苦労なことだな、実に笑わせてくれる!」

フェンリッヒ「貴様、閣下に無礼な口を!」

ヴァルバトーゼ「……元より素直に渡してくれることは期待していない。悪魔なら、やはり正面から奪うだけだな」

ヴァルバトーゼが構え、それに倣い、他の四人も戦闘態勢に入った。

デスコ「おねえさまはデスコが助けるデス……!」

エミーゼル「ぼ、ボクだって少しは強くなったんだ!」

フェンリッヒ「我が主の道を阻むのであれば、何者であろうと倒す」

アルティナ「フーカさんのためです。お許し下さい、フロン様……!」

祈るような表情を浮かべたアルティナの言葉に、ぴくり、とラハールの表情が一瞬変わる。

ラハール(フロン――……)



203 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 00:03:45.61 ID:jMQLYtFW0
視線を真っ直ぐヴァルバトーゼに向け、ラハールが挑発的な笑みを向ける。

ラハール「……言っておくが、以前のようなオレ様ではないぞ? 魔力も格段に上がっている。それでもオレ様と正面から挑むつもりか?」

ヴァルバトーゼ「ああ」

僅かにも視線を逸らさず、答えたヴァルバトーゼに、ラハールが黙る。

ラハール「仲間の為にか?」

ヴァルバトーゼ「そうだ。俺たちはフーカの為に、今ここに立っている」

ラハール「…………」

エトナ「……殿下ー?」

ラハール「……やめだ」

フェンリッヒ「何?」

姿勢を崩し、明らかにやる気を失くした素振りをラハールが見せつける。戸惑う五人の後ろで、エトナ一人が、やっぱりね、と小さく呟いた。

フェンリッヒ「貴様、馬鹿にしているのか!」

ラハール「フン、人間の小娘一人の為に奔走する奴など、支配者どころか悪魔として失格だ。そんな奴は、オレ様と戦う資格すらないわ」

そして腰元に差した魔王剣を、自分の手首に突き立てた。

エミーゼル「なっ! 何して――」

赤い血が腕を伝い、地面に流れて行く。ラハールが黙ってその手をヴァルバトーゼに突き出した。

ラハール「持って行け、オレ様もいつまでもお前たちのような奴等と関わっているほどヒマでは無い。必要な量を集めたらとっと帰れ」

ヴァルバトーゼ「…………」

僅かな沈黙の後、

ヴァルバトーゼ「すまん、感謝する」

そうヴァルバトーゼが頭を下げた。

ラハール「悪魔に感謝など無用だ。さっさと持って行け」

ヴァルバトーゼ「ああ、アルティナ、小瓶を」

アルティナ「は、はい」

ヴァルバトーゼの声に我に返ったアルティナが、慌てて用意しておいた小瓶の蓋を開け、その中にラハールの血を注いで行く。



204 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 00:10:38.07 ID:jMQLYtFW0
アルティナ「……この位あれば、十分かと」

ラハール「なんだ、以外に少ないな」

アルティナ「ご協力、感謝します」

アルティナがヒールの呪文を唱え、ラハールの手首の傷を塞いだ。

ラハール「エトナ、お前もだ」

エトナ「あ、やっぱりあたしもやるんですね」

ラハールの言葉に、アルティナが目をしばたく。

アルティナ「な、何故他の血も必要だと?」

ラハール「決まっている。『魔王の血』が必要なのであれば、お前らの中の誰かの血でまかなえる。にも関わらず、わざわざ別魔界まで来ると言うことは、必要な数が一つや二つでは無いと言うことだろう」

エトナ「うわ、殿下が賢いとか、明日は雪と嵐とマグマと槍が群れをなしてふってきますねー!」

ラハール「馬鹿にしてるのか貴様!」

エトナ「あーもー冗談ですよっ、と」

そしてエトナもラハールと同じように、自分の手首を切り、アルティナに向けた。

エトナ「はい、こっちも取るんでしょ?」

アルティナ「……ありがとうございます」

エトナ「いいのよ、あたしも、間接的にとは言え、あの子を追いつめた原因なわけだし……」

エトナ(こんなことで、罪滅ぼしになるとは思えないけどさ……やっぱ悪魔だよね、あたし)

アルティナ「今、何か?」

エトナ「んーん、何でもないよー」





205 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 00:14:53.41 ID:jMQLYtFW0


エトナ「んじゃ、治ったらあの子にもよろしくねー」

ラハール「フン、もう少し悪魔らしくなったら、その時は手を合わせてやる!」

ヴァルバトーゼ「ああ、感謝する、魔王ラハール、魔神エトナ!」

五人の後ろに、時空の扉が開く。

フェンリッヒ「渡し人がゲートを開いてくれたようです。次の目的地へ直接繋がっています」

ヴァルバトーゼ「ああ、分かった」

ゲートの向こう側へ全員の身体が消える直前、デスコが振り返り、大きく頭を下げた。
時空の穴が少しずつ小さくなり、やがて消えた。辺に闇が戻った時には、もうヴァルバトーゼたちの姿は見えなくなっていた。

静かになった魔王城で、エトナが頭の後ろに手を回して大きく伸びをする。

エトナ「やーれやれ、殿下も丸くなりましたねー」

楽しそうに言うエトナに、ラハールが顔を赤くさせて手を振る。

ラハール「ばっ、馬鹿者! あんな悪魔失格のやつと戦うだけ無駄だと思っただけだ! 成長したと言え! 成長したと!」

エトナ「はーいはい。分かってますって」

ラハール「……ところで、なぜお前がオレ様を起こす時に、あんな騒音がしたと言うのに、誰一人としてここに来ないのだ?」

エトナ「あー、プリニーたちならまた酒かっくらって寝てますから」

ラハール「…………」

エトナ「……アハっ☆」

ラハール「全員叩き起こせ―――――ッ!」


魔王城に、静かな夜は訪れない。



207 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/05(水) 01:13:51.76 ID:NaC2ExLoo
乙でした
ロザリーとかマオとか出てくるのかな


210 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:34:05.29 ID:jMQLYtFW0
デスコ「……さっきとは打って変わってのどかな所デスね」

視界が開けて開口一番、デスコが目を擦りながら言った。

五人は開けた野原に居た。視界は明るい。青い空には太陽が高く昇っていて、小鳥のさえずりさえも聞こえる。平和と言う言葉が非常に似合う場所だった。

エミーゼル「これが魔界? こんな場所もあるんだなあ……」

アルティナ「素敵ですね、気候も暖かく、心地いいです」

そう手を叩いたアルティナの服を、デスコが、掴んだ。その視線はただ景色を見つめていて、アルティナは一瞬言葉を失ったが、

アルティナ「……是非、フーカさんが回復したら、みんなでピクニックにでもしましょうか」

デスコ「そう……デスね。そう……したいデスね」

笑いかけたアルティナに、デスコは精一杯、胸の奥の衝動を堪えて微笑み返した。



211 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:36:43.10 ID:jMQLYtFW0

ヴァルバトーゼ「フェンリッヒ、ここはどこなのだ?」

フェンリッヒ「ここはヴェルダイムと言う辺境の魔界です。十数年前にこの地に降り立った魔王神ゼノンを名乗るものが一時支配していたらしいですが、その魔王も倒され、今は魔王が侵略する以前と同じ自然を取り戻しているとか」

ヴァルバトーゼ「ヴェルダイムと言うと……確かアクターレの故郷では無かったか?」

エミーゼル「あ、そう言えばアイツよく弟の話とかしてたな。そっか、ここか……。ふん、悪い所じゃないな」

ヴァルバトーゼ「まあ悪魔の俺に似合う景色でもない。事をすませて、とっとと次の場所へ向かうぞ」

フェンリッヒ「はっ、こちらです」



アルティナ「ところで、このような平和な場所に魔王なんているのですか? 先程言っていた魔王神ゼノン……と言うお方も倒されているのでしょう?」
 
首を傾げたアルティナに、フェンリッヒがいや、と首を振る。

フェンリッヒ「正しくは、『魔王神ゼノンを名乗っていた』名もなき魔王だ。俺たちがこれから向かう場所に、『本物の』魔王神ゼノンが居る」

アルティナ「ええっ! ほ、本物? と言うより、そんな魔王が居るのにどうしてここまで平和なんで――」

フェンリッヒ「見れば分かる、着いたぞ」

エミーゼル「え? ここが魔王神ゼノンの住処?」



212 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:42:29.47 ID:jMQLYtFW0
エミーゼルが驚いたのも無理は無い。その建物は、魔王が住むと言うような城でもなければ、豪邸ですらなかった。そこにあったのは、少し大きめではあったが、どこにでもあるようなごく普通の民家だったからだ。

「こんな所に住む魔王がいるのかよ」
 
そうぼやいたエミーゼルに、フェンリッヒが意地の悪い笑みを浮かべて言った。

フェンリッヒ「そうだな、お前はここの魔王には会いたくはないかもしれないな」

エミーゼル「は、それどういう意味――」

言いかけた時、民家の扉が開いた。

「早くしろ、もう昼過ぎじゃ、このままでは『ぴくにっく』で昼食と言うものが取れなくなるであろう!」

「身支度に1時間も掛けてたのはお前じゃねえか!」

エミーゼル「うっ、この声は……!」

「馬鹿者! 女子と言うものは身支度に時間を掛けるものなのじゃ! それに……折角アデルと二人きりで出かけるのだから、万全の余を見てもらいたいのじゃ……」

「……馬鹿だな、お前はそんなことしなくたって、俺にとっちゃいつでも万全に可愛すぎる相手だぜ、ロザリー」

「くっ……バカアデルめ、そんなことをさらりと言いおって。でも……そんなところも余は……」

ヴァルバトーゼ「ふむ、悪いがこれ以上は待っていられないので、話をさせてもらっていいか?」

ロザリンド「えっ……」

アデル「なっ……」

デスコ「うわぁ、ヴァルっちさん、流石なのデス……」

アルティナ「懐かしのKYって言葉が浮かびましたよ?」

アデル・ロザリンド「な――――――っ!?」



213 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:47:16.65 ID:jMQLYtFW0
ヴァルバトーゼ「いやしかし相変わらずお前達は仲が言いな。今日もこうして――む、どうした?」

ロザリンド「~~~~~ッ! 殺す! 殺す! 消し飛ばしてやるのじゃ!」

フェンリッヒ「か、閣下、一旦退避を! 凄まじい魔力です!」

アデル「よっ、よせロザリーッ!」


アデル「落ち着いたか?」

ロザリンド「うう……アデルの前であんな姿を見せてしまうとは、自制の効かない自分が情けない……」

アデル「気にすんなよロザリー、そんなお前も俺は大好きなんだからさ」

ロザリンド「あ、アデルっ……」


放っておけば、このような会話を延々繰り返しているバカップル――もとい、ロザリンドとアデルは、このヴェルダイムの地を救った勇者でもある。
この地の時間から十数年前――突如現れた『偽物の』魔王神ゼノンが、住民を悪魔に変え支配していた現状を打破するため、魔王討伐の冒険に出たのがこの赤髪の青年アデル。
そして、その過程、召喚師であったアデルの母が、アデルと魔王神ゼノンを戦わせるため、『アデルの名において魔王ゼノンを召喚する』と言うもとに召喚された者が、魔王神ゼノンの一人娘を名乗るこの金髪の少女であった。
ロザリンドと言う名を持ち、アデルからはロザリーと言う愛称で呼ばれてはいるが、その正体は真の魔王神ゼノンである。
記憶と共に魔王神たる名に相応しい力を取り戻したが、今はアデルとの平和な生活を望んでいるため、その正体を表に出さずに暮らしている。
ヴァルバトーゼたちとの出会いは、互いの為に、金銭を工面しようとした二人が、職を探しにヴァルバトーゼたちの魔界にやって来た所に由来するのだが――。


214 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:49:41.89 ID:jMQLYtFW0
ヴァルバトーゼ「しかしお前達、家を買える程十分な金が貯まったのではないのか? だからこそ我が党を離れたのだろう」

アデル「そ、そのつもりだったんだけどな。なんていうか、こうしてロザリーとはいつでも一緒に居られるんだし、家族と離れるのも寂しい気持ちはあるしな。だから家を離れるのはもう少ししてからにしようと思ったんだ」

ロザリンド「堅実に貯金と言うやつじゃ!」

アルティナ「互いに支え合って生きる……。素晴らしい夫婦ですわ」

ロザリンド「だ、だから夫婦じゃないと言っておろう!」

エミーゼル「もうそこまでいったら否定することに意味なんか無いんじゃ……。うっ、甘ったるすぎて吐き気がしてきた……」

アデル「それより久しぶりだな! こっちに遊びに来たのか?」

アデルの言葉に、五人の顔が僅かに暗くなる。

アデル「あ……悪い、そうじゃないみたいだな。……もしかして、今日居ない、あのプリニーみたいな服来てた女の子が関係しているのか?」

ロザリンド「……どうやらそのようじゃの」

ヴァルバトーゼ「ああ、単刀直入に言う。フーカを助ける為に、『魔王神ゼノン』である、お前の血を譲って欲しい」

アデル「……ッ、お、おいお前! なんでそれを――」

フェンリッヒ「全魔界中継されていた映像を俺が見つけたからな」

さらりといったフェンリッヒの言葉に、ロザリンドの顔が今度こそ火が出るように赤くなった。


215 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:52:35.87 ID:jMQLYtFW0

ロザリンド「ああああああの映像がまだ残っていたのかあ! アクターレの奴めええええっ!」

アルティナ「ああ、なんか過去のトラウマを抉ってしまったようですわ……」

ヴァルバトーゼ「悪いが、こちらとしては真剣な話だ。あまり猶予はない。一刻も早く魔王クラスの血を集め、フーカの為に治療の儀式をしなくてはいけないのだ」
 
その言葉に、ロザリンドの顔から火照りが消え、真剣な表情となる。

ロザリンド「……ふむ、よい目じゃ。余とアデルを受け入れてくれた時も、そのように真っ直ぐな瞳で見てくれたな。……アデル、野草を狩るためのナイフを持っていただろう、貸してくれ」

アデル「あ、ああ」
 
アデルから小さなナイフを受け取ると、ロザリンドが躊躇い無く、自分の手首を軽く切った。

ロザリンド「元よりそなたらには世話になったからな。これくらいお安い御用じゃ」

ヴァルバトーゼ「……すまない、感謝する」
 
ヴァルバトーゼが頭を下げ、アルティナが小瓶の中にその血を注いで行った。

ロザリンド「それと……」
 
ロザリンドが悪戯っぽい笑みを浮かべ、アデルに渡されたナイフを投げ返した。

アデル「うわっ、危ねえな」

ロザリンド「アデル、お主もじゃ。余に劣るとは言え、そなたもまた魔王に匹敵する力は持っておろう」

アルティナ「え、しかし儀式に人間の血は――」

ロザリンド「問題ない、こやつも悪魔じゃ」



216 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:54:34.15 ID:jMQLYtFW0
 
ロザリンドの発言に目を丸くしたのはエミーゼルだ。

エミーゼル「ええっ! だってこいつデビルバスターやってたんじゃないのかよ!」

ロザリンド「何を驚いておる。そなたらとて戦争が起こったら問答無用で同族をばったばったとなぎ倒すであろう。まったくこれだからボンボンは……」

エミーゼル「~~ッ! やっぱりボク、こいつ嫌いだ!」

アデル「あーなんか悪いな。……じゃあ俺も、よっと。ほら、好きなだけ持ってきな」

アルティナ「ええ、ありがとうございます」


アデル「もう行くのか?」

ヴァルバトーゼ「ああ、あまり時間はないのでな。それに、これ以上お前たちの邪魔をするのも悪い」

ロザリンド「なっ……余たちは別に……いや、気を使ってもらってすまない」

アデル「おい、ヴァルバトーゼ、『約束』しろよ。あのフーカって子。絶対に助けろよな!」

時空ゲートを背に、ヴァルバトーゼが振り向き笑う。


217 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/05(水) 16:56:56.44 ID:jMQLYtFW0

ヴァルバトーゼ「当たり前だ、だが、お前とも『約束』しよう」

アデル「ああ、そしたらまた『六人』でここに遊びに来いよ! ホルルト村は良いとこだぜ!」

ロザリンド「うむ、その時は手厚い歓迎をしようぞ!」

ヴァルバトーゼ「ああ、さらばだ!」
 
時空ゲートの穴が塞がり、切り取られた空間は消え、再び小鳥のさえずりが聞こえ始めた。

ロザリンド「行ってしもうたな……」

アデル「まあ、またすぐ会えんだろ、アイツが『約束』したんだ。あの女の子だってすぐによくなるさ」

ロザリンド「……そうじゃな! では、余たちはぴくにっくとやらに行くとするかの!」

アデル「……馬鹿だな、ロザリー」

ロザリンド「な、なんじゃ、いきなり!」

アデル「これは『ピクニック』じゃなくて、『デート』って言うんだぜ」

 
穏やかな風が吹き、小鳥たちがさえずる地――ヴェルダイム。その中で、軽い爆発音が、可愛らしく響く。
ホルルト村は、今日も平和であった。



220 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/06(木) 23:59:20.57 ID:aMe00Wmq0
◆   ◆   ◆

アルティナ「快く血を譲ってくれて良かったですね」

フェンリッヒ「まあ奴は安全牌だと思っていたからな。それに、アデルの方からも血を確保出来たのは大きい。数は多いに超したことは無い」

エミーゼル「これで四つか……。今度はどこなんだ?」
 
五人が歩いていたのは暗闇の中だ。人の気配は多く感じるが、視界が悪い。

フェンリッヒ「時空ゲートの照準が若干ずれていたようだな。しかし間もなく着く」

エミーゼル「――これは……!」

フェンリッヒ「これが三番目の目的地、『魔立邪悪学園』だ」
 
五人の眼前にはどこまでも、おどろおどろしい外見の学び舎の壁が続いていた。

 
魔立邪悪学園――そこは数多に存在する魔界の中でも、一際稀な魔界。魔界全体を学び舎とし、校舎は半永久的に増改築を繰り返している。 
この世界では、学び舎の頂点に立つ理事長を魔王とし、上級の悪魔を教え手――即ち『凶師』とする。
一般的に見て、善となる行為は悪魔にとっての悪であり、一般的な悪が悪魔にとっての善ではあるが、ここではそれが他の魔界に比べ、顕著に見える世界でもある。



221 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:02:04.97 ID:FYG86tVl0

アルティナ「魔立邪悪学園? とするとここは……」

デスコ「も、もしかしてあの……」

「ハァハァ……、つ、ついに我に改造されることを望みに――」

アルティナ「せぇえいっ!」

「ぐぼぁっ!?」
 
変態的なセリフを言い終わる前に、声の主は振り向きざま、アルティナの拳を正面から受けた。後方に数メートル吹き飛び、その身体が校舎の壁に叩き付けられる。

フェンリッヒ「おい、天使、いいのか?」
 
フェンリッヒが冷たい目をアルティナに向け、

ヴァルバトーゼ「ふむ、セリフを待たずして裏拳とは、お前も大分魔界に染まって来たようだな」
 
ヴァルバトーゼが関心した声を出した。

アルティナ「……はっ! つ、つい身体が拒否反応を……! ち、違います、身体が勝手に動いたんです!」

エミーゼル「それ、通り魔の供述みたいだぞ……」

「くぅ、わ、我はこんな所で諦めんぞ……。き、貴重な実験サンプルを目の前にして……」

デスコ「ひいいっ、起き上がったデス!」

アルティナ「こ、この声やはり……デスコさん! 私の後ろに隠れていて下さい!」


222 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:05:21.80 ID:FYG86tVl0

きっ、と起き上がる悪魔をアルティナが睨みつける。なおもこちらへ向かって来ようとする素振りを見せる相手に、アルティナは一瞬のうちに『アルテミスの矢』を構え、相手の胸に狙いを定めた。

アルティナ「こ、これ以上デスコさんに近づいて来るようであれば、容赦なく撃ちますよ!」

「その力……! そうか、お前は確か天使だったな! ハァハァ……、お、お前もサンプルに出来れば……」

アルティナ「ひいいいいいい! ま、マジで撃ちますよ! 脅しじゃありませんよ! ホントに一歩でも動いたら撃ちますからね!?」
 
涙目で叫ぶアルティナに、しかし相手はより興奮を覚えたように口からとめどなく涎を垂らした。

「貴重な……」

アルティナ「ひい!」

「素材を前にして……」

デスコ「あああああアルティナさん、怖いデス!」

「臆するなどで……」

アルティナ「かんっぜんに撃ちます!」

「研究者が務まるかあっ―――――――ぐげぇ!」

アルティナ・デスコ「!?」
 
二人に飛びかかった相手の上に、小さな影が落ちて来た。

「相変わらずだね。でも、魔立邪悪学園一の不良として、理事長の変態行為を見逃す訳にはいかないよ、マオ!」

マオ「ぐ……おのれ、またしても我の邪魔をするか、ベリルめ……」

フェンリッヒ「やれやれ、探すつもりが、向こうから出向いてくれたようですね、閣下」



223 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:09:06.16 ID:FYG86tVl0

そうフェンリッヒに呆れた目で見られた小柄の変態――もといマオは、ここ魔立邪悪学園の理事長、即ちこの魔界の魔王である。
元魔立邪悪学園理事長である父を持つ、魔王の息子的存在であったが、とある事件をきっかけに父と対立、魔王を倒す研究を始めた。
その後魔界に降り立った勇者アルマースを初めとする仲間と共に、魔立邪悪学園の裏で暗躍していた超勇者オーラムを下し、名実ともにこの魔界の魔王――つまりは魔立邪悪学園理事長の座を手にしたのだが――。

ラズベリル「トップがこれじゃあ、この魔界の行く末が心配だよホント」
 
そうマオの頭を両足で踏みつけながら言ったのは、マオの元級友である悪魔ラズベリルだ。
無遅刻無欠席、予習復習は当たり前の、自他共に認めるこの学校一の不良である。マオが理事長となった今も、彼の行動を逐一見張っては不良として制裁を加えているとの噂があるが……。

マオ「くっ……! いいからそこをどくのだベリル! 我にはあの二人を改造すると言う偉大な使命が――」

ラズベリル「まあだ、そんなこと言ってんのかい、嫌がる女の子を襲うなんて、サイテーの行為だよ」

ヴァルバトーゼ「ふむ、それには同意見だな」

エミーゼル「いくら悪魔でもないよねー……」

フェンリッヒ「全くだ、と言うより同じ悪魔と思われたくないな」

デスコ「とんでもない変態さんなのデス!」

アルティナ「近づいたら容赦しません!」

マオ「我の存在全否定か!? ……くっ、それでも我は諦めんぞ! 特に、貴様らの中でも、貴重なサンプルである三体は……む?」
 
そこでマオが起き上がり、五人を見渡す。



224 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:11:09.64 ID:FYG86tVl0

マオ「あの珍しい服を着ていた女はどうした? あの女も貴様らの中で改造したいランキングNo.3だったのだが」

デスコ「……ッ!」

ラズベリル「ありゃま、ほんとだ、あのフーカって子がいないね。……もしかしてアンタらがここに来たのも、もしかしてそれが原因かい?」

アルティナ「ええ、実は――」


ラズベリル「そうかい、そんなことが……」

マオ「フン、あまり面白い話ではないな、我ならもっと上手くやるぞ」

ラズベリル「マオ、言葉を選びな! デスコの気持ちが分からないのかい!」
 
マオがちらりとデスコに視線を向けると、慌ててデスコはアルティナの背に隠れた。アルティナもまたデスコを守るように、デスコの背に手を回す。

マオ「ふむ、まあ話は分かった。要するに貴様らはあの女を助ける為に、我の血が欲しいと言うことだな?」

ヴァルバトーゼ「そうだ、フーカの存在を繋ぎ止めるためにはそれしかない。頼む、血を譲ってくれ」
 
ほんの少し、考えるような素振りを見せた後、マオが意地悪くヴァルバトーゼに笑いかけた。

マオ「くれと言われて素直に渡すような悪魔はおるまい、何かを得ようとするならば、それなりの代価は必要であろう?」

ラズベリル「マオ! あんた何を言ってんだい! フーカって子は一刻を争うんだよ!? 素直に血くらいやればいだろう!」

マオ「ベリル、お前は黙っていろ」

ラズベリル「……ッ!」
 
魔王に相応しい眼光で射抜かれ、さしものラズベリルも声を失った。その行動からは想像は出来ないが、マオもまた内に強大な魔力を秘めた魔王の一人なのだ。



225 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:13:23.88 ID:FYG86tVl0

ヴァルバトーゼ「……確かにお前の言う通りだ。何も為さずして得られるものなどない。何が望みだ」

マオ「そうだな、悪魔らしく等価交換を要求するのであれば、やはりそいつ」
 
デスコの身体がびくりと震える。

マオ「デスコを我のもとに貰おうか」

アルティナ「なっ……馬鹿なことを言わないで下さい! デスコさんは私たちの仲間です、そんなことが許される訳無いでしょう!」

マオ「外野は黙っていろ。デスコに決めさせてやる。お前が我のもとへ来るなら、我の血を好きなだけやろう」

デスコ「デ、デスコは……デスコは……」
 
頭の中で、デスコを守るため、マオを地獄の彼方へ飛ばしたフーカの言葉が思い浮かぶ。

 ――アタシのカワイイ妹に何すんのよ!

 ――大丈夫よ、何度来たって、アタシが守ってあげるから。

いつも守りたいと思っていた姉は、いつの間にか自分を守ってくれるようになっていた。けれどその姉は今ここにはおらず、存在の消滅の合間を彷徨っている。
手を伸ばせば、救えるのだ。何より、フーカの存在を救った所で――。

デスコ「分かったデス、デスコ、マオさんの所に行くデス」

アルティナ「なっ……正気ですか、デスコさん!?」



226 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:15:17.22 ID:FYG86tVl0

エミーゼル「や、やめとけよデスコ! 何されるか分かんないぞ、下手したら、最悪何も分かんないくらい改造されて――フーカだって絶対に怒るぞ!」

デスコ「それも……いいかもしれないデス」

その時には、フーカは何も覚えてはいないのだ。グロテスクな化け物の妹など、初めから居ないほうがいいだろう。
もし、マオに改造されて、フーカへの想いも何も感じることが無くなってくれれば、それは好都合なのかもしれない。
 
小さく呟いたデスコの声は、誰の耳にも届かなかった。

デスコ「じゃあ、取引成立デスね。マオさんの血は貰うデスよ」

マオ「ああ、そうだな……」

アルティナ「デスコさん、駄目――」
 
差し出されたデスコの手に、マオが注射器を突き刺した。そして、

デスコ「……なにやってるデスか?」

マオ「無論、血液採取だが?」
 
その場に居た、マオ以外の全員の口があんぐりと開く。



227 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:16:38.24 ID:FYG86tVl0

アルティナ「え、あなたはデスコさんを自分もものにしようとしたんじゃ……」

マオ「ああ、だからしっかりと、デスコの血を我のものとさせて貰ったぞ。等価交換と言っただろう」

アルティナ「そ、そんな……」

マオ「ハァハァ……この血をもとに研究と実験だ……。うっ、想像しただけで涎が……!」

エミーゼル「全く、救いようの無い変態だな。ある意味尊敬するよ」

アルティナ「……では、こちらも血を貰いま――……やっぱりエミーゼルさんお願いします」

エミーゼル「なんでボク!?」

アルティナ「出来ればあの方に近づきたくないので」

ラズベリル「やれやれ……まったく、アンタってやつは」
 
呆れたように言ったが、マオを見つめるラズベリルの口元は、僅かに誇らしく笑っていた。



228 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/07(金) 00:18:48.04 ID:FYG86tVl0


アルティナ「では、私たちはここで失礼しますね」

ラズベリル「おお、今度はフーカも連れて遊びに来なよ! アタイらが手取り足取りきちっと案内してやるからさ!」

マオ「うむ、次はこの血の実験を基に必ず改造してやるからな、楽しみにしていろ!」

アルティナ「絶対にさせませんからね! ……全く、失礼します」

時空ゲートの穴が塞がり、空間がもとに戻る。再び当りには騒がしさが訪れた。

ラズベリル「マオ、あんた、わざとだろ?」

マオ「なんのことだ?」

ラズベリル「とぼけんなよ、普段のアンタなら、血だけなんてみみっちいこと言わずに、全身まるごと要求しただろう。等価交換なんてカッコつけやがって」

マオ「フン、それはお前が研究者と言うものを分かってないだけだ」

ラズベリル「ま、そういうことにしといてあげるよ」

マオ「さて、我は早速研究を――」

ラズベリル「おっとさせないよ。まず理事長の職務を果たして貰わなくっちゃあね」

マオ「ベリル……貴様、我を阻もうと言うのか?」

ラズベリル「不良として、職務怠慢を見逃すわけにはいかないんでね!」

マオ「よかろう! そこまで言うなら、我はお前を倒して行く!」

ラズベリル「上等だよ! 校内一の不良を舐めんなよぉ――――っ!」


魔立邪悪学園は、今日も騒動に満ち溢れていた。


230 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/07(金) 00:37:41.55 ID:kh4plfp0o
乙デス


233 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:33:48.95 ID:nZMzYF8e0
◆ ◆ ◆

フェンリッヒ「次の目的地で、ほぼ全ての血を揃えられると思います」

時空ゲートを抜けた先で、フェンリッヒが言った言葉にエミーゼルが目を丸くする。現状で集まった血は合計で5。フェンリッヒやヴァルバトーゼの血を使うことになっても、まだ7つしか無い。この魔界にはそれほど魔王が居ると言うことなのだろうか。

エミーゼル「な、なんかここからでも、凄いプレッシャーを感じるんだけど」
 
藍色の岩石に囲まれた、草木の生えぬ荒野。薄暗い世界の中で、一つの巨大な城が見えた。

フェンリッヒ「あれが、四つ目の目的地、魔王の住む城です」
 
フェンリッヒの言葉に、ヴァルバトーゼはほんの少し、牙を出して笑った。

「よくぞ来たな、暴君ヴァルバトーゼとその仲間たちよ」

城の前にはすでに一人の魔王が立っていた。長身に、背まで届く燃えるような赤い髪。凍てつくような鋭い眼光は、あらゆるものを射抜くようだ。
かつて、ヴァルバトーゼと戦い、互角の勝負を繰り広げた宇宙最強魔王――

ヴァルバトーゼ「久しぶりだな、ゼタ」

ゼタ「ああ、待っていたぞ、ヴァルバトーゼ」

ゼタの姿がそこにあった。



234 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:35:32.19 ID:nZMzYF8e0

宇宙最強魔王ゼタ――この魔界の時間軸から数年前に、とある者から自身の魔界崩壊の予言を受け、その阻止に全知全能の書を求め動いた魔王。
結果として魔界は崩壊し、自身は肉体を失い本の姿になってしまったのだが、それは過去の話。
今は自らの肉体を完全に取り戻し、かつての宇宙最強魔王の座に返り咲いている。

ヴァルバトーゼ「よく俺たちがここに来ることが分かったな」

ゼタ「何、予言を受けてな」

ヴァルバトーゼ「予言?」

ゼタ「そうだ、この魔界には全知全能の書と言うものが存在する。我はその書に予言を受けたのだ。近々、我が生涯唯一認めしライバル、ヴァルバトーゼがやってくるとな」

フェンリッヒ「この魔界にはそのようなものが……? 後で調べてみる必要があるな」

呟いたフェンリッヒの言葉をデスコが聞いた。一瞬俯いたが、今はまだと一人首を振った。

ゼタ「さあ、再び始めよう、第二界、宇宙最強魔王決定戦をな!」

そうゼタが高らかに言うと同時に、城の中から三つの影が飛んで来た。

「出番だね、ゼタ」

「微力ながら、支援します!」

「面白そうな話だしね」

そう言いゼタの横に降り立った三人の魔王――、背徳者サロメ、魔王ペタ、そして予言者プラム。



235 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:37:04.41 ID:nZMzYF8e0

数多の魔界が密接に結びつくこの魔界では、他の魔界と異なり、多くの魔王が密集している形になり、群雄割拠している。
その中でも背徳者サロメ、予言者プラムは、魔王ゼタの魔界と特に近い魔界に拠点を持ち、支配している魔王である。
一方魔王ペタは、未来から父の助力にやってきた、魔王ゼタの娘である。見知らぬ娘がゼタの子を自称した時は、サロメの精神が崩壊しかけたと言う話だが、それはまた別の話。
今は誤解も解け――というより未来のゼタとの間に生まれた娘と言うことを知り、彼女の精神は幸福の絶頂にあるだろう。

ヴァルバトーゼ「ほう、お前の方にも仲間か」

ゼタ「そうだ、前回は貴様の持つ、仲間との絆の力に我は破れた。だが、今回は我も一人ではない。我が仲間と、貴様の仲間、互いの力をぶつけようではないか!」

プラム「ま、私はゼタの仲間になったつもりはないんだけど、短い付き合いじゃないしね」

サロメ「二度もゼタに膝を付けさせる訳にはいかないよ。今度は通るが私たちが勝つ」

ペタ「お父様の為です、お世話になった身ですが、容赦は致しません!」

プラム、サロメ、ペタ、そしてゼタの身体から凄まじいオーラが放たれる。大地は怯えるように振動し、天空では暗雲が渦巻き始めた。



236 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:38:55.91 ID:nZMzYF8e0

ゼタ「さあ、始めるぞ!」

フェンリッヒ「くっ、話をする暇も無い! 閣下、ここは迎え撃つしかありません。戦いの中で奴等の血を奪いましょう!」

ヴァルバトーゼ「……仕方ない、あまり時間を掛けたくないが――」

デスコ「駄目デス!」

凄まじい波動が揺れ動く中、デスコの声が響いた。

デスコ「やめて下さい、ゼタさん! デスコ達には、そんな時間は無いんデス!」

ゼタ「時間だと?」

そこでゼタは一行の中に、以前戦った時には居た少女が一人欠けていることに気付いた。未だ自分たちを前に魔力を解放してすらいなかったことに違和感を覚えては居たが、まさか――。

ゼタの身体からオーラの波が消える。

サロメ「ゼタ? どうしたの?」

ゼタが戦闘態勢を解除したのを見て、他の三人も構えを崩す。

ゼタ「おい、ヴァルバトーゼ。あの小娘はどうしたのだ?」

ヴァルバトーゼ「……フーカは――」


プラム「へえ、そうだったの。いつも一緒にいるのに、不思議には思っていたけど」

人差し指を唇に当て、妖艶な仕草でプラムが言う。その横でペタが顎に手をやり、何か考えるような素振りを見せた。


237 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:40:55.15 ID:nZMzYF8e0

ヴァルバトーゼ「頼む、フーカを救える方法はそれしかない。お前たちの血を譲ってくれ」

ゼタ「……フン、悪魔ならば頭を下げるような真似はよせ。なにより、お前は我が認めた唯一のライバルなのだ」

ヴァルバトーゼ「ゼタ……」

そして自分の手首を持っていた大剣で裂き、ヴァルバトーゼに突き出した。

ゼタ「持って行け、血などいくらでもくれてやる」

ヴァルバトーゼ「……! すまん!」

ゼタ「構わぬ、だが、一つ『約束』しろ」

ヴァルバトーゼ「……?」

ゼタ「その小娘が完治した時には、必ず貴様ら『六人』と、我と我の仲間と共に戦ってもらうぞ」

ヴァルバトーゼ「ああ、『約束』しよう」

プラム「まったく、素直じゃないわね、相変わらず」

ペタ「さすがお父様、器の大きさも宇宙一です」

ゼタ「フハハハハッ! そうとも、我こそは宇宙最強、魔王ゼタだ!」

サロメ「ふふっ、随分丸くなったものね。じゃあ、私たちもゼタに倣ったほうがよさそうだね」

そして次々に血を用意するサロメたちに、デスコの目が潤む。

デスコ「……ありがとう、ありがとうございますデス……!」

けれど、その涙がどのような感情によるものなのか、それを知るものは誰一人としていない。


238 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:42:32.02 ID:nZMzYF8e0


エミーゼル「これで9……。あとは6つか」

エミーゼルがそう呟いた時、辺に雷鳴が響いた。一筋の雷光が大地に激突し、辺に粉塵が舞う。

砂煙の中に、一人の影が見えた。

エミーゼル「な、なんだぁ!?」

「フフッ、なんだか賑やかじゃねーか。まあいい、今日こそは決着を付けさせて貰うぞ、ぜ――ごほおっ!?」

完全に言い終わるよりも前に、現れた人物はゼタの強烈な拳を喰らい吹き飛んだ。ぴくぴくと痙攣するその男の頭を掴んで、ヴァルバトーゼの方に突き出す。

ゼタ「ちょうどよかった、腐ってもコイツも魔王の一人だ。血を持って行け」

エミーゼル「うわぁ……。あんな扱いされたらボクだったら泣くな」

そう言い捨てられたのは、破壊神アレクサンダー。雷を操る、強力な魔力を持つ魔王の一人で、ゼタのライバルを自称している猪突猛進な青年。
じつに四桁もの戦争と五桁もの刺客を送り込んで入るが、未だ正式に決着は着かず、度々ゼタに勝負を挑んで来る。

プラム「アレク、あなたも少し学びなさいよ」

アレクサンダー「くうっ、お、俺様は諦めねえぞ……。ゼタを宇宙最強魔王の座から引き摺り下ろすまではなあ……」

アルティナ「な、なんだかよく分かりませんが、折角なので血は頂いておきますね」



239 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:44:31.62 ID:nZMzYF8e0


エミーゼル「じゃあ、これで10……。次はどこに行くんだって言うか、あと何カ所回るんだ? 早くしないとフーカが……」

フェンリッヒ「心配するな、次で最後だ」

エミーゼル「え、次で終わりなのか?」

フェンリッヒ「ああ、閣下の威光と統治を完全にさせるため、長年探していたのだが。……まさかこんな形で対峙することになろうとはな」

エミーゼル「……? よく分からないけど、ようやくフーカを助けられるってことだろ?」

フェンリッヒ「……そうだな」

俺たちが生きていればの話だが。

その言葉は、喉の奥に飲み込んだ。そう、これから対峙する相手は、今までのように、会話の成り立つ相手ではない。

仲間の内、全員を生還させることが、出来るのかも分からない。

しかしそれでも――。

フェンリッヒ「閣下なら、否、俺たちなら成し遂げられる筈だ」

そしてフェンリッヒが顔を上げる。五人の前に時空ゲートが開かれた。

デスコ「次で、最後。そう、デスね……。もうすぐ、終わりなんデスね。大丈夫デスおねえさま、デスコは、自分の命に代えても、おねえさまを助けるデス……」

デスコの虚ろな呟きは、ヴァルバトーゼだけが聞いていた。デスコから視線をゼタに写し、その瞳を合わせた。



240 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:46:16.68 ID:nZMzYF8e0

ヴァルバトーゼ「……世話になったな。再戦は必ずする」

ゼタ「ああ、我もその時まで、無敗をここに『約束』しよう」

アレクサンダー「くっ……その『約束』、絶対に破らせてやるからな、覚悟しろよ!」

サロメ「じゃあ、短い間だったけど、あなたたちに会えてよかったよ。ゼタの成長も間近に感じることが出来た」

プラム「そうね、中々面白い見せ物だったわ」

ペタ「――では、みなさん、どうかお気をつけて」

アルティナ「ありがとうございました!」

アルティナが最後に頭を下げ、時空ゲートの扉が閉じる。再び世界に静寂が訪れた――と思われたが、

アレクサンダー「さて、邪魔者も居なくなったことだし、早速決着をつけさせてもらうぜ、ゼタ!」

サロメ「あれがあなたの言っていたヴァルバトーゼか。言っていた通り、不思議な悪魔だね」



241 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:47:57.71 ID:nZMzYF8e0

ゼタ「そうだな、まったく変な奴だ。……それより」

アレクサンダー「……あれ、おい、ゼーター?」

ペタ「? なんですか、お父様、ペタの腕に何かついていますか?」

ゼタ「ペタよ、腕に痛みはないのか? しっかり傷は塞がっておるのか?」

アレクサンダー「おい、こっちこっちゼター?」

ペタ「え、な、なんのことですか?」

ゼタ「さっき血を渡す為に腕を切っていただろう! もう一度よく見たほうがいい! ヒーラーに――」

娘を抱きかかえ城へと走って行くゼタを、プラムが複雑な面持ちで見つめる。

プラム「……まさかゼタがこうなるとは、私も予言出来なかったわね」

サロメ「嗚呼、私との間に出来た子に多大なる愛情を注ぐゼタ……素敵よ」

アレクサンダー「~~ッ! 俺様を無視すんじゃねえ――――ッ!」


この魔界の騒動も、当分収まりそうに無い。


242 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:49:34.41 ID:nZMzYF8e0

◆   ◆   ◆

地獄――ヴァルバトーゼの屋敷。フーカを膝の上に抱えていたフロンが、はっと顔を上げた。

ヒーラー「? どうしたました、フロン様?」

フロン「……たしかに、儀式の成功率は、その血の持ち主が強力であればあるほど高まります。……けれど、まさか……」

ヒーラー「フロン様? 一体何を……」

ヒーラーの視線に気付き、慌ててフロンは首を振った。

信じるしか無い。待つしか無いのだ。今自分に出来ることは、五人の勇者の無事を願い、そしてやるべき覚悟を決めるだけ。

フロン「それが、私の最後の仕事になりますからね……」



243 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:52:13.67 ID:nZMzYF8e0
◆   ◆   ◆

エミーゼル「なんだか、時空ゲートがおかしくないか? いつもならすぐに目的の場所に行けるのに」

エミーゼルがそう言ったのも無理は無い。時空ゲートは対象の座標と、現在地点の間の空間を切り離し、直接A地点からB地点へ移動が出来るものだ。
しかし、今五人は、時空ゲートの中――奇妙にねじ曲がった空間を歩んでいた。解読不能な古代言語が朧げに発光する通路。その道の先は一点の光も宿さぬ闇が口を広げている。

アルティナ「時空ゲートに道が出来るなんて……。まさか、これから向かう先に居る者の影響ですか?」

フェンリッヒ「察しがいいな。そうだ、最後の目的となる奴の場所は、強力な魔力が充満している」

エミーゼル「時空ゲートに干渉を及ばすなんて、そんなことが出来る悪魔が……」

エミーゼルの背筋に震えが走った。しかしその横で、デスコは赤い目を、暗く濁らせている。

デスコ「誰でも関係ないデス。これが終われば、おねえさまを……」

ヴァルバトーゼ「…………」

戦闘を歩いていたヴァルバトーゼが、立ち止まり、四人に振り返った。

ヴァルバトーゼ「皆、ここまでよくやってくれた」

エミーゼル「どうしたんだよ、いきなり」
 



244 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 13:58:17.47 ID:nZMzYF8e0

ヴァルバトーゼ「最後の奴は、俺たち全員でも、正直難しい。そして、今までのように、会話の成り立つ相手でもない」

アルティナ「……つまり、最終決戦と言うことですね」

ヴァルバトーゼ「そうだ」

デスコ「……構わないデス、いざとなったら、デスコは刺し違えても、そいつを倒してやるのデス」

吐き捨てるようにデスコがそう言った時、デスコの身体が僅かに後ろに飛んだ。デスコの身に何が起きたのか、デスコを含め、四人は分からなかった。
しばらくして、ヴァルバトーゼの突き出した右腕を見て、彼がデスコを殴り飛ばしたことを理解した。

あまりのことに、本来なら一番に口を出す筈のアルティナですら、言葉を失っていた。決して、仲間には手を出すことのなかったヴァルバトーゼが、デスコを殴り飛ばしたと言う事実に、現状を理解しても、頭がそれに追いつかなかったのだ。

殴られたことを理解したデスコが、目を血走らせてヴァルバトーゼに掴み掛かった。

デスコ「何を……するんデスか!」

牙を剥き出し、怒りを露にするデスコと対称に、ヴァルバトーゼは冷ややかな目でデスコを見下ろす。

ヴァルバトーゼ「何故殴られたのか分からないか?」

デスコ「分からないデス! デスコはただ、おねえさまの為なら、死んでもいいって――そう決意しただけデス!」

そう言い終わると同時に、再びヴァルバトーゼはデスコの身体に拳を入れた。



245 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 14:00:28.65 ID:nZMzYF8e0
デスコ「がっ……!」

小さな身体がはね飛ばされ、異空間の床にバウンドする。

ヴァルバトーゼ「デスコよ、お前のそれは決意でもなければ、姉にたいする畏敬でもない。捨て鉢になっているだけだ」

デスコ「……っ、く……」

反論をしようとするが、鳩尾に拳を入れられたせいで、呼吸すらままならない。けれど、誰もデスコに駆け寄ることはしなかった。――否、出来なかった。この場の空気に、エミーゼルもアルティナも、恐怖し、動くことが出来なかったのだ。

ヴァルバトーゼ「デスコ、お前が何を抱えているのかは分からぬ。だが、己の命に代えてもと言う程度の心持ちで行くのであれば、俺はお前をこれ以上連れて行かない。足手まといになるだけだ。大人しく地獄に帰れ」

デスコ「……ッ! な、なん……なんでデスか……」

苦しげに身体を抑えながら言うデスコに、フェンリッヒが静かに言った。

フェンリッヒ「この先に居る魔王は、一人だからだ」

三人には、その言葉の意味が初めは分からなかった。だが、ほんの少しして、アルティナが気付く。続いて、エミーゼルもそのことに気付いた。

デスコ「……?」

フェンリッヒ「分からないか、デスコ。現時点で集まっている血は10。そして、次の奴から血を奪っても11。なら、残り4つの血はどこから出す?」

デスコ「それは……」

そこで、デスコはヴァルバトーゼの言葉を思い出した。ゲートへ向かう前、デスコの頭を叩き言った言葉。

――お前の血も使うかもしれんのだぞ。



246 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 14:03:19.13 ID:nZMzYF8e0
フェンリッヒ「そうだ、残り四つの血。それは、閣下、俺、エミーゼル、そして――デスコ、お前の血だ」

デスコ「――!」

エミーゼル「まっ、待って! ぼ、ボクの血も使うのか?」

ヴァルバトーゼ「自身が無いのか?」

エミーゼル「い、いいのか。ボクなんかの血で……」

俯いたエミーゼルに、ヴァルバトーゼははっきりと言った。

ヴァルバトーゼ「ゼタに勝利した時、俺は言った筈だ。父を超え、魔界大統領に相応しき存在だと」

エミーゼル「!」

フェンリッヒを見ると、彼もまたエミーゼルに向き、小さく頷いた。

エミーゼル「そう……だよな。使えよ、いくらでもオレ様の血をフーカにやるさ!」

久しく聞いたエミーゼルのオレ様と言う言葉に、ほんの少し笑い、そして再びデスコに向いた。

ヴァルバトーゼ「分かったか、デスコよ。血はその者が死んでは意味が無い。フーカを助ける為には、俺たちの中の誰一人として、欠けるわけにはいかんのだ」

デスコ「……っ」

ヴァルバトーゼ「それが理解出来ないようなら、お前はただ死ぬだけだ。そうなっては、フーカを、お前の姉を救うことなど出来ぬ。帰れ」



247 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 14:04:15.70 ID:nZMzYF8e0
何故、ヴァルバトーゼがデスコを殴ったのか。アルティナとエミーゼルの二人は理解した。平手は無く、拳で殴ったのも、悪魔だからではない。
それは――

デスコ「デスコは……」

エミーゼルに言ったように、かつてゼタに勝利した時、ヴァルバトーゼがデスコに向けた言葉が蘇った。

――どこの世界に出しても、恥ずかしくないラスボス。

けれど、今の自分はどうだろう。姉が遠く離れた存在になることに、自棄になり、自分を消してしまおうとすら思っている、ただのいじけた子供。
ヴァルバトーゼに認めてもらう資格はあるのだろうか。

殴られた頬と鳩尾がじんじんと痛む。けれど、彼は殴ってくれた。生まれて間もない子供だからでも、女だからでも、そんな理由で平手にすることは無く、拳を握り、殴ってくれた。
それは彼が悪魔だからではない。デスコを、自分を、ラスボスとして、自分の仲間として認めているからこその拳だったのだ。
それすらも分からないようでは、もう、ヴァルバトーゼと共に行く資格は確かに無いだろう。

デスコ「おねえさま……」

フーカの顔が頭に浮かぶ。笑った顔。怒った顔。そして、初めて見せてくれた、本当の泣き顔。

忘れたくない、そう慟哭したフーカに――そうだ、自分は言ったではないか。

――決して、自分は忘れないから大丈夫だと。



248 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 14:07:58.40 ID:nZMzYF8e0
膝を抱えて、デスコが立ち上がった。その瞳からは暗い感情を消え、確かな決意が宿っていた。それは、さっきまでの捨て鉢な決意などではない。

誰一人欠けること無く、姉を救うと決めた強き意思。

その様に、ヴァルバトーゼはフッ、と腰に手を当て笑みを浮かべた。そして四人に背を向け、足を踏み出す。瞬間――異空間の道はひび割れ、その場にはあらゆる生命体が震え上がるような重圧がのしかかった。
ライラッタの雷が竜のように踊り狂い、嘆きの旋律が鳴り響く。世界を砕き奏でられるその唄は、さながら、偉大なる暴虐(グレートワイルダー)と言った所だろうか。

だが、誰一人として揺るぎはしない。眼前に見える、巨大な影に、五人の視線が向く。

ヴァルバトーゼが高らかに叫ぶ。

ヴァルバトーゼ「行くぞ! あれが最後の敵――超魔王バールだ!」

彼の超魔王が、星をも砕く彷徨を上げる。


全宇宙を揺るがす、史上最大の戦いが、今幕を開けた。


249 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/08(土) 14:11:28.00 ID:nZMzYF8e0
今回はここまでです。
余裕があればまた深夜にあげるかもしれません。

魔王巡りの度も、もうすぐ終わりです。
4のDLCでは可愛く登場したバールさんですが……このSSでは面接に来てないと言うことでお願いします。


251 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:34:27.90 ID:0sqSFaEF0
遅くなりましたが、次レスより更新再開します。
こんな時間になってしまい申し訳ありません…。


252 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:36:57.13 ID:0sqSFaEF0

◆   ◆   ◆

彼に、名は無かった。

彼の名を呼ぶものは誰一人としていなかった。
彼の姿を見たものは、一瞬にして灰になり、話を聞いたものも僅かな時に、塵埃と消える。

一つの月が昇るうちに、あらゆる生命は枯れ果てる。

二つの月が昇る夜には、その世界から音が消える。

三日目に、月は昇らない。

空と大地は逆転し、全ての存在は概念となり、その役割を終えるのだ。

彼の世界から、目は消え、耳は消え、声は消え、永劫なる闇が訪れる。

世界を、星を、宇宙を、黒き眠りへ誘う使者。

彼は如何なる存在にも干渉されず、如何なる場所にも干渉する。

彼は滅びることは無い。

その魂は、幾度の死を超えても、決して消えることは無く、次の肉体を求め、必ずこの宇宙に再来する。



253 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:38:36.95 ID:0sqSFaEF0

彼に意思など無い。
 
彼に目的など無い。
 
彼に理由など無い。

言葉も無く、感情も無く、ただ、そこにある、災厄の形。

未来に、過去に、現在に、あらゆる時間軸空間に彼は存在し、そして必ず破壊をもたらす。


しかしいつからか、彼は自身の存在の意義を考えた。

命を奪い、世界を砕き、何故自分はここにいる?

何故自分は生まれたのか。

生命が生まれるのは、他者に望まれるから生まれるのだ。

だが、誰が自分を望んだと言うのだ。

誰が自分を欲したと言うのだ。


答えを知るにはもう、あまりにも長い月日が立っていた。

彼は宇宙の始まりから存在し、そして宇宙の終わりまで、永遠に生き続けるのだろう。

絶対鳴る破壊者に訪れたのは、限りない虚無と、そして絶望。



254 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:46:07.75 ID:0sqSFaEF0


そして、いつしか彼は孤独を求めた。

何にも干渉されぬ、自分だけの宇宙を創った。

彼の肉体は永い安寧を、彼の精神は深い眠りを望んだ。

宇宙の終わりまで、その地で眠ることを願い。


そうして、更に長い月日が経った。
 
彼の恐怖は伝説となり、そして神話となり、眠りについた破壊者は、ついにその名を授けられた。


ある時は災い。

ある時は恐怖。

またある時は、神とすら呼ばれた、この大宇宙において、唯一無二の『調停者』。


命を、星を、そして時空すら死へと変える存在――名を、『暴虐の邪神』(バール)と、彼は呼ばれた。


青き筋肉質の身体。巨大な二本の角。闇と同化した漆黒の翼。それが、その邪神のあるべき姿。


だが彼は思う。――まただ。

この孤独な宇宙に、また彼の平穏を妨げる愚者が訪れる。


何故、自分を起こすのか。


彼は許さない。

眠りを妨げる者を、安らぎを妨げる者を。

彼は戦う。

彼がこの宇宙で、唯一欲する、孤独の為に。


255 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:47:54.85 ID:0sqSFaEF0

◆   ◆   ◆

――咆哮。鼓膜が破けそうな程の鋭く、重い響きに、五人の肺が悲鳴を上げる。

フェンリッヒ「ぐっ……! 声だけで、なんと言う重圧……!」

フェンリッヒが思わず歯を喰い縛る。話には聞いていた。儀式のためには、この魔王の血が必要不可欠と言う話も。
大天使フロンはそう話した。

儚げな笑顔で、かつて一度だけ行われた儀式だと。その儀式を再現する為には、この魔王の血が必要だと。
何故彼女が泣きそうな顔をしていたのか、それは知る由もない。
だが、救う方法がそれしかないのであれば、実行するだけだ。自分に出来ることは、それしかないのだから。

しかし――。

フェンリッヒ「これは、予想以上だな……」

伝説の超魔王。主の支配を絶対のものとするために。
そう思い、調べていただけの存在だった。大げさな言葉で綴られた伝承を前に、フェンリッヒは鼻白んだ。
馬鹿馬鹿しい。こんな悪魔が存在する訳が無い。

所詮、伝説か。そう、思った。

フェンリッヒ「馬鹿は、俺か……」

すべてがリアルだと、今なら理解出来る。それほどまでに、次元の違う存在。



256 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:49:18.55 ID:0sqSFaEF0

誰一人欠けること無く、フーカのもとへ帰る。

主の絶対の言葉すら、貫き通せる自身は無かった。

フェンリッヒ「――馬鹿か!」

叫び、フェンリッヒが駆ける。

今自分が感じるべき恐怖は、大いなる力に対する恐怖ではない。

仲間が死ぬ恐怖。そして、フーカを救えないと言う恐怖。

しかしその恐怖は同時に、守るべきものがある強さを彼らに与えるのだ。

フェンリッヒ「オオオオッ!」

フェンリッヒの腕が僅かに膨張し、その爪が硬化する。『俊迅強撃』――鋭い斬撃が、バールの身体を一閃した。



257 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:52:05.73 ID:0sqSFaEF0
エミーゼル「お、オレ様だってやるさ!」

フェンリッヒの攻撃がバールの身体を捉えると同時に、エミーゼルが死神の鎌を構える。

エミーゼル「魂ごと、その身体、裂いてやる!」

握る鎌に宿るのは、命を狩る、死の魔力『ソウルアジェクト』。

アルティナ「限界まで打ち出します!」

その瞬間に、アルティナがかつて無いスピードで『アルテミスの矢』を引く。一本ではない。引いた瞬間に、次の矢を装填し、対象を射抜く。
バールの頭上から、光の矢の豪雨が落ちる。

ヴァルバトーゼ「さあ……処刑の時間だ」

刹那――ヴァルバトーゼが両手を鳴らし、大きく広げる。異空間から無数の赤い槍が伸びる。残虐なる処刑、『カズィクル・ベイ』。

デスコ「――これが、ラスボスの力なのデス!」

そして、ヴァルバトーゼの横で、デスコが咆哮と共に背の触手から破壊光線を飛ばした。

五人の魔力が超魔王の肉体を襲う。凄まじい爆発と共に、そのエネルギーの余波が、五人の身体に飛んだ。



258 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:53:19.00 ID:0sqSFaEF0
アルティナ「くっ……」

上空を飛んでいたアルティナはその余波を大きく受け、数十メートル打ち上げられたが、数秒後に体制を立て直した。
弓を下ろし、短く息を吐く。
沸き立つ煙の中、沈痛な面持ちで、そのもとに倒れているであろう超魔王に眼差しを向けた。

アルティナ「……ごめんなさい。あなたにとって、私たちは悪逆なる異邦人以外の何者でもないでしょう」

ぎゅっ、と瞳を瞑り、唇を噛んだ。

アルティナ「愛する人のために、他者を傷つけるなんて、皮肉ですね……」

自嘲するような笑みを浮かべたアルティナだったが、その表情は僅かな時に崩れ去った。


アルティナ「……嘘」



259 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 02:55:04.13 ID:0sqSFaEF0
そこに見えたのは、無傷と言える、超魔王の姿。その身体は揺るぎなく、仁王の如く両足で一歩もその位置から動いていない。

自分も、そして、ヴァルバトーゼたちも、最大の魔力を込めた筈なのだ。

命を奪う気ですら居た。そうでもしなければ、彼の超魔王を制するに至らないと分かっていたからだ。

だが――これは一体何の冗談だと言うのだろう。

自分たちは、魔界を治めた集団の筈だったではないか。

自分たちに適う者など存在しなかったではないか。

どんな強敵であろうとも――必ず、勝利して来たではないか。

しかしそんな言葉が薄っぺらい嘘のように、今そこに超魔王は微動だにせず君臨している。


悪夢としか思えなかった。そう震えるアルティナに、これは現実だと証明するように――、一振りのグランソードが、彼女の身体を貫いた。


262 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/10(月) 23:59:01.21 ID:0sqSFaEF0

ヴァルバトーゼ「――アルティナ!」

ヴァルバトーゼがそう叫んだ瞬間、彼の視界の外から強烈な拳が叩き込まれた。ヴァルバトーゼの身の丈はあろうその拳は、彼の身体を易々と吹き飛ばし、この世界の壁へと叩き付けた。

デスコ「ヴァルっちさん!」
 
デスコが気を取られた一瞬、その小さな身体を潰すように、もう片手が振り下ろされた。その影にデスコが気付いた時には、防御を取るにも、回避を取るにも遅すぎた。
 
――おねえさま。

全ての時が、スローモーションに動く中、視界に、フェンリッヒの背が見えた。

フェンリッヒ「がああああっ!」
 
衝撃。フェンリッヒが左手を突き出し、バールの腕を止めていた。二人の魔力が互いに反発しあい、その余波が雷光となり火の粉のように辺に飛び散る。

フェンリッヒ「ぼさっとするな! 忘れたか、一瞬の隙が命取りとなる!」

デスコ「で、でも、ヴァルっちさんが――」
 
フェンリッヒが咆哮を上げ、バールの腕を弾く。たった一回の攻撃を退けただけで、フェンリッヒの額からは汗が流れていた。

フェンリッヒ「閣下の心配など不要だ。お前はただ、自分を守り、姉を助けることを考えていろ」


ヴァルバトーゼ「くっ……中々重い拳だが――アルティナ!」
 
視線の先ではアルティナと、その身体を貫くグランソードが見えた。しかしアルティナは墜落することせず、空中でその姿勢を維持している。

ヴァルバトーゼ「待ってろ、今助けて――」

走りかけたヴァルバトーゼに、アルティナは黙って手を付きだす。来るなと言うように。


263 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/11(火) 00:00:15.45 ID:pmdjPx310
ヴァルバトーゼ「……アルティナ?」

絶望に飲み込まれそうになりながらも、しかしアルティナは懸命に自分の意識を保っていた。自分が死んだら――否、死ぬだけならまだいい。もし自分の身体を細切れにでもされてしまった時、今まで、数多の魔王託してくれた希望は全て灰となってしまうのだ。
今になって、フェンリッヒが何故自分に血を持たせていたか分かった気がした。儀式に使われるのは、ヴァルバトーゼ、フェンリッヒ、エミーゼル、そしてデスコ、四人の血。天使である自分の血はその儀式に使うことは出来ず、また自分がそれに値する力を持っているとも思えなかった。

心の奥底で、思っていたのだ。ならば、どうしても、どうしても犠牲が必要な時は自分が――。
他の四人を失っては儀式を行うことが出来ないが、それに必要の無い自分ならば、まだその屍を、礎として築けるのだ。

だが、それは叶わない。何故なら、自分は今、十の血を持つ守護者なのだから。一つでもその血を失ってはならない。死ぬことは許されず、自己犠牲などもってのほか。

――フェンリッヒさん、あなたはやはり優しいですね。優しくて、卑怯です。

アルティナ「こんなことに気付いてしまったら……絶対に、生きて戦うしかないじゃないですか……!」

これが悪夢などと馬鹿らしい。ならばフーカが味わったものは一体何なのだ。たった一人で孤独に戦ったあの少女は――最後の最後まで、妹を助けようと戦っていたではないか!
 
震える手を、胸を貫いたグランソードに回し、勢い良く引き抜いた。大量の鮮血と共に、堪え難い激痛が身体に走る。
しかし意識を失う前に、神業とも言える早さでアルティナは自らにメガヒールをかけた。傷が塞がり、朧げな視界がクリアになる。
視線の先に居たヴァルバトーゼのもとに降り立ち、軽くウインクをした。

アルティナ「これでも私は、あなたの党の一員なのですよ? 気遣いは無用です」

ヴァルバトーゼ「……フッ、俺としたことが、無粋な真似をしたな。――行くぞ!」

アルティナ「はい!」



264 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/11(火) 00:01:50.04 ID:pmdjPx310

二人が地面を蹴り、バールに突撃する。ヴァルバトーゼが腕を振り、鋭い長剣を振りかざした。同時にアルティナがブレイブハートの詠唱を唱える。

ヴァルバトーゼ「フェンリッヒ、デスコ、エミーゼル、下がれ!」

次元魔法の文字が円を作り、そしてそれがバールを囲んだ。ヴァルバトーゼの声に気付き、素早く三人がバックステップを踏む。

ヴァルバトーゼ「うおおおおッ!」

魔力を込めたヴァルバトーゼの剣戟を迎え撃つように、バールが右手に巨大なグランソードを握り、切り返す。しかしその腕が空中で止まった。

エミーゼル「そうはさせない!」

エミーゼルが死神の鎌を振り、ギガクールの呪文を唱えていた。凄まじい勢いでバールの半身が氷付けになり、その自由を奪う。
あれだけの攻撃が空振りになった次の瞬間であるにも関わらず、瞬時にヴァルバトーゼの攻撃のサポートに回ったエミーゼルを見て、ヴァルバトーゼは誇らしげな笑みを浮かべた。

エミーゼルの瞳にもまた、諦めの色など浮かんでいない。その瞳は、まさしく未来の魔界大統領に相応しき色を宿していた。

ヴァルバトーゼ「超魔王よ、ここに沈め!」

バールの身体を囲んだ次元魔法が、やがて巨大な光な柱となっていく。その柱ごと、次元ごと、全てを切り裂く究極剣義。

ヴァルバトーゼ「魔陣大次元斬!」
 
魔力を纏う、巨大な剣が光の柱を切り裂いた。轟音と共に、赤黒い血が世界を染める。同時に、超魔王の咆哮が轟いた。

デスコ「やっ、やったデスか!?」

さきほどまでとは明らかに違う。確かな手応え。――しかし、


265 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/11(火) 00:04:17.31 ID:pmdjPx310

バール「ooooooOooOooooOOnn!」

エミーゼル「くそおツ! 不死身かよ!」

身体の中心から血を噴き出させながら、それでも超魔王の進撃は止まらない。その身、次元を切り裂かれも尚、決して崩れぬ魔力を纏い。
絶対なる力。破壊のみを繰り返す、理性なき災いの権化。それこそが、超魔王が超魔王たる所以。

嘆きの唄と共に、五人の頭上から無数のグランソードが降り注いだ。

フェンリッヒ「くっ、散れ! 集中砲火に遭うぞ!」

 フェンリッヒのがそう叫んだ瞬間、しかし彼は視界の先に、異様なものを捉えた。

フェンリッヒ「なん……だ、あれは……」

大地より伸びるグランソードの切っ先。そして、強大な魔力を宿したバールの両腕。

フェンリッヒ「まさか……」

フェンリッヒの顔から、血の気が引く。

フェンリッヒ「皆、ここを離れ――」

その声は遅い。

 
かつて彼の前に立つ存在は、その姿を見ると同時に灰となったのだ。

故に、今、ここにこの五人が立っていたことも、奇跡に他ならないのだろう。

そこに、感情など無い。ただ彼が行うのは破壊のみ。


放たれた、無慈悲の殺戮――それ即ち、解析不能の恐怖(『エニグマクライシス』)。


269 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:40:46.27 ID:B9ebcwYO0
 
何が起きたのか。
一瞬の明転。次に暗転。視界を染める色が白一色に塗りつぶされた。それがバールの放った攻撃と言うことを理解することは、その直撃を受けても気付かなかった。
ただ、次の瞬間には、再起不可能なほどの破壊を受けた仲間たちの身体がそこにあった。
 
適わない。自分たちだけでは、確実に。しかし彼を絶望に突き落としたのはそれだけでなかった。
自分に寄り掛かり、生きているのかさえ分からないアルティナ。その身体が、赤い血に染まっている。しかしそれは彼女だけの血ではない。
砕けた瓶。流れる十の血。

アルティナが倒れたことで、瓶に欠けられた結界は儚く崩れ、攻撃の衝撃で全て砕けてしまったのか。
すべて、水の泡だ。再び別魔界へ飛び立つ時間も、力も、無い。何より、今ここから、目の前の超魔王を倒して進むことなど出来るのだろうか。
だが、彼は何より怒りに震えていた。僅かな時間ではあったが、彼の頭の中では激しい爆発が幾度も続いていた。
そして、十数秒の後に、その怒りの一端を、やっと口に出すことが出来た。



270 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:41:38.14 ID:B9ebcwYO0

ヴァルバトーゼ「――何故、俺を庇った、アルティナッ!」
 
明転の後の暗転。それは自分に覆い被さるように、ヴァルバトーゼを守ろうとしたアルティナの姿。暗転の後には、アルティナの声すら聞こえなかった。ただ、凄まじい衝撃が彼を襲った。
ヴァルバトーゼの身体が、倒れている仲間の中で、一番傷が浅いのは目に見えて分かった。全ての力を込めて、ヴァルバトーゼの身体を自身の魔力で包み込んだのだ。必然――瓶を守っていた結界も、それに準じて保護を失ったと言うことだ。

ヴァルバトーゼ「何故……何故だアルティナ! 言った筈だ! 俺たちは誰一人欠けてはならぬ! 一人が死ねばそこで無に帰ってしまう! 何故命令を無視した!」
 
揺さぶるが、返事は無い。その無言が、ヴァルバトーゼには何より恐ろしかった。

ヴァルバトーゼ「フェンリッヒ、エミーゼル、デスコ――皆、返事をしてくれ……」

そこに響くのは、空しき虚無。

皆動かない。そして自分もまた、かろうじて動けるほどの力しか無かった。

終わりなのか。ここで、終わるのか。フーカを救えず、友を、仲間を、愛する女を、約束を守ることが出来ず、死ぬのか。



271 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:43:31.97 ID:B9ebcwYO0
 
――否!

悲鳴を上げる身体を動かし、それでもヴァルバトーゼはアルティナを抱きかかえ立ち上がった。
その瞳には、地獄の支配者たる確かな焔が宿っていた。

ヴァルバトーゼ「俺は、『約束』を守る! 全てを賭けて、俺は誓った! それを破るわけにはいかん! 誰一人死なせはせん! 俺が、俺に約束したのだ!」

「――ほう、中々言うではないか。流石腐っても、オレ様に勝った悪魔なだけある」

ヴァルバトーゼ「!」

突然の声に、ヴァルバトーゼが上空を見上げると同時だった。

ラハール「獄炎ナックル!」

 焔を纏ったラハールが、バールの右翼を突き破る。獄炎ナックルが巨大な火柱を作り上げると同時に、その影から無数の青い弾丸が飛び出した。

エトナ「くたばりなー!」

そう楽しげにバールに向かい指差したのは、魔神エトナ。放たれた弾丸と思われたのはよく見ると、なんと数十匹のプリニーだった。

プリニー「ちょ、超魔王にオレらの特攻なんて意味ないッスよエトナ様ーッ!」

エトナ「いいじゃないの、超魔王に特攻したプリニーとして、永遠に歴史に刻まれるよ、アンタたち!」

プリニー「ひいいい~ッス! せめて華々しく散ってやるッス!」

プリニーがぶつかった箇所から、凄まじい爆発が巻き起こる。その威力はとても魔界最低辺に位置する存在から生まれたものとは思えない。

ヴァルバトーゼ「――ラハール、エトナ!」



272 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:44:42.64 ID:B9ebcwYO0
エトナ「お久しぶりねー、ヴァルバトーゼ。割と苦戦しているみたいじゃない?」

ラハール「フン、オレ様に勝ったくせに、他のものに負けるなど絶対に許さん! とは言え」

ラハールが振り向き、爆煙の中のバールを睨みつける。

ラハール「まさかこのような場所で眠っていたとはな……しかし今度こそ逃がしはせんぞ!」

そんなラハールを、エトナは僅かに誇らしげな様子で見つめ、再びバールに視線を移した。

エトナ(さて、ちょっとはダメージ喰らっているといいんだけど……)

バール「Grrrrrrrrrrrrrr……!」

エトナ「ま、そー簡単には行かないわよね……!」

爆煙の中を、何事も無かったかのように足を進めるバールに、エトナの額から冷や汗が流れた。
バールの腕が、再び魔力を纏い始め、無意識にラハールとエトナは一歩引き、防御を構えた。

「まさか、また……、駄目だ、すぐに離れろッ!」

だがエニグマクライシスを目の当たりにしていない二人には、それが何か分からない。再びこの世界に、破壊の雷が落ちようとした時だった。



273 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:46:56.00 ID:B9ebcwYO0
アデル「燃ゆる炎、爆ぜる火の粉、火竜の如し――飛翔爆炎脚!」

ロザリンド「撃ち砕け、クレストローザスッ!」

赤い炎を纏う、アデルの一撃必殺の蹴り。そしてその後方より、ロザリンドが、バールの後頭部へ氷結の花を連射した。

ヴァルバトーゼ「アデル、ロザリンド!」

マオ「――超魔王、素晴らしいサンプルだ!」

ラズベリル「不良心得2、母乱帝亜ッ!」

無数のビームがバールの身体を貫き、続きざま、バールの足下を囲むアポカリプスの紋様から火柱が上がる。

ヴァルバトーゼ「マオ、ラズベリルも!」

バール「GuoooooOooOOOooO!」

ラズベリル「チッ、まだぴんぴんしてんのかい!」

マオ「流石は伝説の超魔王と言うワケか……!」

「――ほう、ならば、この宇宙最強魔王親子があいてしてやろう」

ヴァルバトーゼ「!」



274 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:49:36.73 ID:B9ebcwYO0

ゼタ「ゼタビィィィィィィィム!」

ペタ「ペタビーム!」

振り返ったヴァルバトーゼの脇を通り抜け、二本の赤いビームがバールの胸を貫いた。一拍の後に爆煙が上がり、辺一帯が火の海と化す。

プラム「まだよ! ホワイトレイジッ! 」

サロメ「加勢するよ、ゼタ! ブラックプリズン!」

アレクサンダー「決着に邪魔な野郎は全てぶっとばしてやる! ライジングボルト―――ッ!」


ヴァルバトーゼ「ゼタ、プラム、サロメ、アレクサンダー……」

目を見開いて固まっていたヴァルバトーゼの額を、ラハールがはたく。

ヴァルバトーゼ「なっ!」

ラハール「フン、何を惚けた顔をしている。皆、貴様らの為にわざわざ出向いてやったのだぞ」

ヴァルバトーゼ「皆が、俺たちの為に……?」



275 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/12(水) 20:52:16.25 ID:B9ebcwYO0
プリニー「倒れていた人たちには全員ヒールかけたッスよ!」

エトナ「オッケー、じゃあもうプリニー落としの弾になっていいよー」

プリニー「ひいいいいッス! そ、そんな、俺たち弾にならなくてラッキーと思ってたのに!」

エトナ「うっさいわね、ちゃんと帰ったら魔界病院で再生してあげるわよ。さ、いってこーいッ!」

ヴァルバトーゼ「何故、俺たちの為に来たのだ……?」

エトナ「はあ?」

エトナが振り向いて、ヴァルバトーゼをこれ以上無く奇妙な生き物でも見るように眉をひそめた。

エトナ「アンタねえ、何でって」

ヴァルバトーゼ「これは、俺たちの戦いだ! お前たちが手を出す必要は無い筈だ! なのに……何故……」

強がりではなく、本当に理解出来ていない様子のヴァルバトーゼに、ラハールはため息をついた。そして自分の頭を乱暴にかき乱し、そして言う。

ラハール「……もういい、貴様は言わないと分からんだろうからな。……いいか? 一度しか言わんからな!」

そして息を吸い込み、しかし顔を向けること無く、ラハールはヴァルバトーゼに言った。

ラハール「オレ様たちと、お前らは――『仲間』だからだ」


277 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/12(水) 21:17:43.99 ID:rhFYP+hCo
熱い展開だ
ダークヒーローが来なくてよかった


280 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:16:41.77 ID:bQ8zSUYW0

ヴァルバトーゼ「仲……間……」

エトナ「へえー、殿下の口からそんな言葉が出るとは驚きですねー」

にやにやとエトナがラハールに後ろから抱きつき、慌ててラハールは首を振った。

ラハール「ち、違う、そ、そうだ、アレだ! これは『同志』と言う奴だ! バールを倒すための一時的な……その……戦略的なんちゃらというやつだ!」

エトナ「素直じゃないのは相変わらずですねー」

ラハール「うるさい! さっさと奴を倒すぞ!」

そんな風にじゃれあう二人を、ヴァルバトーゼはぼうっと見つめていた。仲間、その言葉が頭に静かに響く。

ゼタ「そういうことだ」

ペタ「皆、あなたの仲間です」

後ろからゼタがヴァルバトーゼの肩を叩き、ペタが静かに頷いた。

周りを見ると、アデルも、ロザリンドも、マオも、ラズベリルも、皆――不敵な笑みを浮かべ、頷いた。



281 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:17:55.36 ID:bQ8zSUYW0
フェンリッヒ「閣下……これが、あなたの作り出した、『約束』の力なのですね……」

ヴァルバトーゼ「――! フェンリッヒ!」

足を引きずりながらも、そう誇らしげに笑みを浮かべ、フェンリッヒが言う。

エミーゼル「お前が……強い奴を引きつける理由が分かった気がするよ」

フェンリッヒ同様、身体中を傷だらけにしながらも、楽しげにエミーゼルが言う。

ヴァルバトーゼ「エミーゼル……」

デスコ「ヴァルっちさん……やっぱり、ヴァルっちさんは、絶対に『約束』を守ってくれる人デスね」

ヴァルバトーゼ「デスコ、――アルティナ!」

デスコもまた、足を引きずりながら、それでもその小さな身体にアルティナを抱え、ヴァルバトーゼの前に膝を付いた。

デスコ「ヒールが尽きてしまったみたいデス。一番皆の中で傷が深かったデス……」

ヴァルバトーゼ「アルティナ……」

その間にも、バールの進撃は続く。しかしそれを決定的なものとしないのは、他の魔王が必死にバールの攻撃を逸らしているからだ。



282 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:18:55.42 ID:bQ8zSUYW0

アデル「くそっ! このままじゃいずれデカいやつが来るぞ!」

ロザリンド「構わぬ! 今は――あやつらのもとへ行かせぬことだけを考えるのじゃ!」


抱えられたアルティナの血はまだ僅かに流れ続け、呼吸もしているのか分からないほどに細く小さい。
ヴァルバトーゼを、愛する男を守り、そして全てを負った、一人の少女。

ヴァルバトーゼ「アルティナ、俺は……」

アルティナ「素晴らしい……ですね……」

ヴァルバトーゼ「! アルティナ! 気付い――」

アルティナ「本当に、あなたは凄い人……」

アルティナの目に、ヴァルバトーゼは映っていない。朦朧とした意識で、世界をぼんやりと見つめている。
その、曖昧な意識の中、けれど、一言一言、伝えるように、アルティナは言葉を紡ぐ。



283 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:20:55.44 ID:bQ8zSUYW0

アルティナ「あなたの、その誇り高き意志が……誰かを想う、その心が……結びつき、そして大きくなって行く……」

細い涙を流しながら、アルティナが右手を僅かに上げる。超魔王と戦う、彼の『仲間』を讃えるように。

アルティナ「『約束』。あなたのその想いが……こうして、素晴らしい仲間を築いたのですね……」

そして言った。ずっと想っていた。けれど言えなかった、たった一つの大切な言葉。



アルティナ「それが――私の愛する吸血鬼さんなんですね」



その言葉が、ヴァルバトーゼの頭を、心を、想いを貫く。

ここが戦場と言うことも忘れ、ヴァルバトーゼはアルティナの唇を、自分の唇で塞いだ。
時にして、僅か数秒。けれどその時間は、きっと人が味わう中で、何よりも長く感じる時なのだろう。

静かに唇を離し、ヴァルバトーゼは立ち上がった。


ヴァルバトーゼ「皆、力を貸してくれ。――俺の大切な仲間たちよ!」




284 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:22:37.69 ID:bQ8zSUYW0
デスコ「残っている魔力を、全部絞り出すデス!」

エミーゼル「頼むぞ、ヴァルバトーゼ!」

フェンリッヒ「我が力、全て閣下に捧げます!」


ゼタ「最終局面だ、ペタ、大丈夫か?」

父の言葉に、ペタが頷く。

ペタ「『全知全能の書』から、封印の術式は得ています」

ゼタが頷き、そして空中のプラムたちを見上げた。

プラム「彼らが……そう、決めるのね。分かったわ!」

サロメ「行くよ、私たちが隙を作る!」

アレクサンダー「けっ! まあ派手に決めてやるさ!」

三人が両手を広げ、そして叫ぶ。



285 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:24:38.47 ID:bQ8zSUYW0

プラム・サロメ・アレクサンダー「「「ペタ――」」」

プラム「クール!」

サロメ「ウインド!」

アレクサンダー「スター!」

魔法界の管理人に、対価を払うことで発動するオメガの呪文。更にその上を行く、テラ魔法。しかし更にその上がある。
魔力を極め、その法の管理人に、多大な対価を払い発動することの出来る、この世界に置いての究極魔法。

三人の背後に現れる巨大な影――ペタクールの管理人、ヒサメ、ペタウインドの管理人、フクカゼ、そしてペタスターの管理人、BBQ。

三者から放たれた強力な魔力の渦が、バールの身体に激突した。

バール「GooooOoOoooo……!」

バールの身体が傾き、荒ぶる悲鳴が世界に響く。しかし、その瞳が、破壊を忘れたわけではない。
ヴァルバトーゼ側が勝負を最終局面に持ち込んだのと同様、彼もまた、この戦争を終わらせようとしていた。



286 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:26:38.78 ID:bQ8zSUYW0

数多の大戦を経て来たこの魔王の集団ですら、かつてない戦慄が走った

そう、破壊の邪神が放つ、究極の死。全ての存在を、永久なる黒き眠りへ誘う呪文。
その砲撃が、着々と始まろうとしていた

ロザリンド「なん……じゃ、これは……。これが、生物の発する力なのか!?」

アデル「……ッ! あの三人が開いてくれた隙だ! 構わず行くぞロザリー!」

アデルが叫び、ロザリンドも歯を喰い縛り頷いた。

ラズベリル「いよいよ、ラストバトルだね、マオ!」

マオ「ならば我も最大の力を打ち込んでくれる!」

ゼタ「ペタよ、行くぞ!」

ペタ「はい、お父様!」

ヴァルバトーゼが目を開く。彼の翼が黒く開き、無数の蝙蝠が飛び散った。三人の魔力が完全にヴァルバトーゼのもとに吸収された。

それを合図に、六人が大地を蹴る。



287 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:28:29.47 ID:bQ8zSUYW0
アデル「怒れる烈火、大地を揺るがす、武神の如し――烈火武神撃!」

ロザリンド「眠りし闇、血の花を咲かせよ――ローズリーパレード!」

マオ「封印されし悪鬼……今ここに目覚めよ! ヴァサ・アエグルン!」

ラズベリル「最大級の悪夢を見せてあげるよっ! 不良心得3・漢凶保護!」

アデルが炎を纏った強力な拳を光の速さで打ち付け、巨大な光の羽を広げたロザリンドが、獄凍の花を狂い咲かせる。
マオの背後に現れた、巨大なデーモンが、四枚の紋章から、叛逆の雷を撃ち、ラズベリルの召喚した五つ首の蛇神が、破滅の瘴気を放つ。

その後ろから、二人の宇宙最強魔王が飛ぶ。

ゼタ「真オメガ――」

ペタ「タイム――」

ゼタ・ペタ「「ドライブ!」」

時空をねじ曲げ、時を超えた速さで、ゼタとペタが拳を打ち込む。
時空と時空の合間に出来る、僅か1コンマ――時の止まった世界。その狭間に立った二人が、同時に叫ぶ。



288 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:29:59.53 ID:bQ8zSUYW0

ゼタ「ゼタ――」

ペタ「ペタ――」

ゼタ・ペタ「ビィィィィィィム!」

時が動き出すと同時に、上がる巨大な爆発。その爆炎に照らされた、魔王と魔神が空を舞う。

ラハール「行くぞエトナ!」

エトナ「了解、殿下!」

ラハール「メテオ――」

エトナ「カオス――」

ラハール・エトナ「「インパクト!」」

二筋の流星が、炎の軌跡と共に超魔王に飛び込む。左右対称に攻撃を受けたバールの体制が、更に崩れた。



289 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:32:51.19 ID:bQ8zSUYW0
バール「Guoooooo……!」

しかし超魔王の攻撃が終わったわけでも、止まったわけでもない。
力は十分に蓄えられた。ここまでの攻撃を、無防備で受けながらも、しかし止まることの無い、破壊の呪文。


そびえ立つ超魔王に対極するように、剣を構えたヴァルバトーゼが向かう。


魔力など枯渇している筈だった。身体など動かすのも辛い筈だった。
しかし今――かつて無い程に、何とも分からぬ不思議な力が彼に漲っていた。

それは、友が、愛する女が、そして、多くの仲間が与えてくれた『絆』の力。

バール「AooooOOOOooOn!」

眼前に立つ、超魔王の咆哮。しかしそれは、孤独な、世界を嘆く、哀しみの唄。


ヴァルバトーゼ「超魔王バールよ。お前は強い、お前にたった一人で勝てる存在は、この大宇宙のどこにも存在しないだろう」

ヴァルバトーゼが静かに剣を振り上げる。

ヴァルバトーゼ「しかしそれは他者を知らぬ孤独な強さだ。孤独は愛するものではない、孤独は己の力を上げぬ」

そこでバールの瞳が――感情の無い邪神の瞳が、初めて『ヴァルバトーゼ』を捉えた。

ヴァルバトーゼ「愛するものが、守るべきものがあるからこそ――生きるものは強くなるのだ! それを今、貴様に『教育』してやる!」



290 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 00:36:44.82 ID:bQ8zSUYW0
バール「GuOoooOOOOOOooooooOOO!」

星を砕く咆哮。嘆きと、そして『怒り』の力。
その瞬間、グランドクロスを想わせる、宇宙を破壊する十字の光が、ヴァルバトーゼを包み込んだ。


如何なるものにも死は訪れる。死が訪れるものには、しかし次なる『生』が訪れる。

そう、この大宇宙に置いて『彼』意外の存在はその輪廻の中にあるのだ。

『彼』はそれを許されない。

『彼』は眠りを許されない。

故に哀しみ、そして嘆く。

放たれた嘆きの破壊。それは永遠の死。その命を、永久なる墓の下に埋めよう――『グレイブエタニティ』。

そして、














その光が、切り裂かれる。

バール「!」

ヴァルバトーゼ「――超魔王十字斬!」


死のクロスを切り裂く、対のクロス。

それは数多の数えきれぬ咎をその身に課せ、断罪を告げる大十字。
そして同時に、彼の眠れぬ者に、安らぎを送る、魔王の墓標。




宇宙を震撼させた、歴史に置ける最大の闘争に今、終止符が打たれた。


292 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/14(金) 00:42:24.42 ID:SNZgWHn5o
乙でした
エトナとベリルはいるけど、やっぱりアクターレの出る幕は無かったか
ここでアクターレのラヴダイナマイツを見せられてもアレだもんね


296 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 14:59:39.41 ID:bQ8zSUYW0
ラハール「終わったか……」
 
崩れ行く、バールを見ながらラハールが呟く。そしてヴァルバトーゼに向かい、転がっていた一つの小瓶を投げた。

ヴァルバトーゼ「!」

ラハール「さっさと血を集めろ。いつまたやつが起き上がるか分からんぞ」
 
そう、血に宿る魔力は、その者が生きている場合にしか宿らない。故にバールもまた死んだ訳ではない。

ヴァルバトーゼ「ああ、すまない」
 
倒れるバールの前に立ち、ヴァルバトーゼは傷口から流れる血を瓶に注いだ。

ヴァルバトーゼ「超魔王よ、礼を言う。お前が居たからこそ、俺はまた一つ、大切なものを掴むことが出来た。それは他の誰でもない、お前と言う強敵と戦ったからこそ得られた者だ。――ありがとう」

バール「…………!」

その言葉が何を示すのか。
生まれた時から、破壊を繰り返し、恐怖し、忌み嫌われた存在。
それは、暴虐の邪神が初めて感謝を唱えられた瞬間だった。

ペタ「ヴァルバトーゼさん、失礼しますわ」



297 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 15:00:33.53 ID:bQ8zSUYW0
ヴァルバトーゼ「ペタ、どうするのだ?」

ペタ「この方に封印を。内からも、外からも破れぬ強力なものを施します。……安らかに眠れるように」

ヴァルバトーゼ「そうか……頼む」

ペタ「はい」

そしてペタが両手を広げ、封印の呪文を詠唱する。
バールの身体を無数の紋章が囲み、そして包んで行く。

ペタ「願わくば、もう二度とあなたの眠りが妨げられないことを――」

――ああ、自分は、眠ることを許されるのか。

かつてない安堵が、『彼』の心に訪れる。

ペタ「――おやすみなさい、超魔王バール」

一瞬の発光。明転。そして視界が晴れた時、そこに超魔王の姿は無く、封印の紋章が刻まれていた。


298 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 15:11:29.30 ID:bQ8zSUYW0
ペタ「これで、本当に終わりです」

ヴァルバトーゼ「礼を言う、魔王ペタ」

「いいえ、戦いは終わりました。けれど、まだ本当の目的は終わっていません」

そう言ったペタの表情は、何故か暗い。哀しんでいるような、その想いを必死に堪えているような、そんな顔だ。

ヴァルバトーゼ「……ペタ?」

ペタ「何でもございません、行きましょう。あの人のもとに」


――地獄。

日は既に落ち、空には赤い月が浮かんでいた。

どこからか、プリニーの奏でる、赤い月の歌が聴こえてくる。

ヴァルバトーゼ「そうか、今日は赤い月だったな……」

ヴァルバトーゼが呟き、空を見上げる。

ラハール「フン、この世でもっともつまらん光景だ」

そうラハールが吐き捨て、同じように月を見上げた。

ペタ「もの哀しい歌ですわね……」

プラム「罪人の魂が洗われ、現世にて転生を果たす。希望の歌の筈なのに……確かにどこか哀しいわね」


デスコ(おねえさまも、もうすぐ……。でも、それがあるべき形なのデスね……)


300 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:34:48.87 ID:bQ8zSUYW0
ヴァルバトーゼ「戻ったぞ」

寝室の扉を開け、ヴァルバトーゼが言った。

フロン「お帰りなさい、きっと戻ってくると信じていました。相当、苦しい戦いだったのでしょうね」

傷だらけのヴァルバトーゼを見て、フロンが言う。

ヒーラー「すぐに手当を――」

ヴァルバトーゼ「いや、俺はいい。アルティナが一番重傷だ。コイツから頼む」

そうヴァルバトーゼが抱えたアルティナをヒーラーに渡す。すぐにヒーラーがメガヒールを唱えた。

フロン「皆さん、相当やられていますね」

フェンリッヒ「全くだ。俺たちの力もまだまだと言うことが分かったぞ」

ヒーラー「それで、魔王の血は……」

ヴァルバトーゼ「ああ、皆、ここに居る」

ヒーラー「?」



301 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:35:58.99 ID:bQ8zSUYW0
ヴァルバトーゼの言葉に、ヒーラーが首を傾げる。間もなく、寝室に十人が姿を見せた。

ヒーラー「――ッ!?」

フロン「これは……。凄いですね」

入って来た中の一人――一際若い魔王と、フロンの視線が交差する。

ラハール「フン、久しぶりだな、フロン」

フロン「ええ、ラハールさん」

十人がフロンに視線を向ける。好奇、敵意などをそれぞれ含んだ視線を一身に受け、フロンは静かに目を瞑り、息を吐いた。

フロン「ありがとうございます、一人の少女の為に、これほど多くの魔王、そしてその仲間たちが集まってくれたことは、未来永劫、歴史に残ることでしょう」

マオ「そのような歴史などいらぬ。魔王として恥さらしだ。さっさと儀式とやらをすませろ」

フロン「ええ、そうですね。時間も、あと僅かです。ですがその前に――」

フロンが視線をヴァルバトーゼに向けた。



302 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:37:25.02 ID:bQ8zSUYW0
私は、確かに十五の血が必要と言いました。けれど、あなたの血を使うとは、思いませんでした」

フロンの言葉に、ヴァルバトーゼは静かに眠るフーカのもとへ歩いた。

ヴァルバトーゼ「これは、俺が決めたことだ」

フロン「『約束』は、もうよろしいのですか?」

ヴァルバトーゼ「ああ、これも、『約束』のためだ」

フロン「そうですか」

フロンが小さく微笑む。ヒーラーに支えられたアルティナもまた、嬉しそうに目を細めた。そして小さく、自分だけに聴こえるように呟く。

アルティナ「けど、認めるのは一度だけですからね」

ヴァルバトーゼが、眠るフーカの首に牙を立てる。

フーカ「……ッ!」

ヴァルバトーゼ「すまないフーカ、一瞬で終わる」



303 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:38:41.64 ID:bQ8zSUYW0
ヴァルバトーゼの喉を、フーカの血が潤す。

この場に居る、唯一の人間。
 
その血を吸ったことで、彼の身体は再び暴君の魔力を取り戻した。

エミーゼル「それが、お前の本当の姿か」

デスコ「立派な姿デスね」

フェンリッヒ「……一時でしかありませんが、よくぞ、お戻りになられました」

フェンリッヒが膝を付き、主の帰還を讃える。
僅かな一時。しかし、それは彼が何よりも望んだ姿。すべては、儀式が終わるまでの幻想だとしても。

フロン「では、儀式を始めます。皆さん、血を、お願いします」

 員が頷き、それぞれの手首を切る。赤い血が、腕を流れ地面に落ちる。その中で一人、じっと震えていた少女がフロンに駆け出した。

ゼタ「ペタ、何を――」

ペタ「すみません、お父様。ですが、この方に一つだけ、聞きたいことがあるのです」

そして、その大きな赤い瞳をフロンに向けた。



304 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:39:28.28 ID:bQ8zSUYW0
フロン「どうかしましたか?」

ペタ「……私は、この宇宙の全てを記す、『全知全能の書』を見ました」

フロン「……!」

ペタ「そこには、今、あなたが行おうとしている儀式のこともありました」

フロン「……そうですか、知ってしまったのですね」

二人の声は、小さく、他の者には聴こえない。震える声で、ペタは訊く。

ペタ「……自らの命を、投げ出そうと言うことですか?」

その質問には答えず、フロンは静かに微笑みを浮かべた。

フロン「小さな魔王さん。このことを、黙っていてくれて、ありがとうございます」

そしてペタに背を向け、両手を広げた。

フロン「儀式を始めます。ペタさん、お願いします」



305 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:41:00.62 ID:bQ8zSUYW0

もうペタに言葉を紡ぐ余地は無かった。この人はもう決めてしまっている。それは決して揺らがぬ、固い決意。
初めて出会った自分が、動かせるようなものではなかった。
 
涙をぼろぼろながしながら、ペタも自分の手首を切った。

フロン「ありがとうございます。では――始めます」

フロンの足下、そして眠るフーカの周りに、紋章が浮かび上がる。同時に、魔王たちの腕から流れた血が、14の紅いクリスタルとなり、フーカの周りを囲んだ。
ヴァルバトーゼが小瓶を開け、最後の血――バールの血を飛ばす。
一際輝くそれが、フーカの胸元へ浮かんだ。

巨大な雷が部屋を駆ける。風が吹き、轟音が響き続けている。

ラズベリル「凄いよ、こんな魔法を見られるなんて……!」

マオ「長らく様々な研究をしているが、こんな魔法は初めてだ」

ロザリンド「壮大な魔法じゃ。流石、魔王クラスの血を十を超える数必要とするだけはあるのう」

アデル「頼む、成功してくれよ……!」

口々に皆がそう話す中で、しかし、一人だけその儀式に違和感を覚える者が居た。



306 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:42:38.89 ID:bQ8zSUYW0
ラハール(あの儀式――どこかで、いや、知っている?)

エトナ「殿下……?」

ラハールは目を見開き、その光景を見ていた。頭の片隅で、はっきりとしない、映像がフラッシュバックを続ける。

ラハール(オレ様は……あの儀式を――)

そして、彼の頭に、かつてない戦慄が走った。

ラハール「母……上……」

エトナ「……え?」

同時にフロンのもとへ、ラハールが駆け出す。

ラハール「フロン、貴様ッ!」

エトナ「ちょ、殿下!」

ラハール「貴様! 死ぬ気なのか! また、自分を引き換えに死のうと言うのかッ!」

エトナ「――まさか、駄目、フロンちゃん、やめなさい!」

他の者には、二人が何を言っているのか分からない。これは、フーカの記憶を一部消し、存在を繋ぎ止める儀式ではなかったのか。

その中で、デスコが、ペタが、ぼろぼろと涙を流していた。



307 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:43:50.58 ID:bQ8zSUYW0

フロンが振り返り、二人に微笑む。

フロン「二人には、とってもお世話になりましたね」

エトナ「何言ってんのよ! あんた、天使になって本当にボケちゃったの!?」

フロン「これは、私が背負うべき罪、そして、果たさなくてはいけないこと」

ラハール「巫山戯るな! お前は、母上と同じだ! お前も、あの時と同じようにオレ様を置いて行くと言うのか!」

フロン「ラハールさん……」

ラハール「これが、これが愛だと言うなら、オレ様はそんなもの一生認めんぞ!」

フロン「…………」

エミーゼル「あ、アイツら何を言ってんだ?」

そう言ったエミーゼルに、デスコは涙で震える声で話す。

デスコ「これは、おねえさまの記憶を消す儀式なんかじゃないんデス……」

フェンリッヒ「……なんだと? なら、これは……」



308 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:45:38.42 ID:bQ8zSUYW0
デスコ「おねえさまを、人として蘇らせる儀式なんデス……」

エミーゼル「……は?」

デスコ「デスコには、全部分かってたデス! 大天使さんが、自分の命と引き換えにおねえさまを助けようとしていることも――でもっ! デスコには、やめてなんて言えなかったデス! デスコは、デスコは――!」

アルティナが身体を起こし、フェンリッヒがフロンに駆け出す。

アルティナ「フ、フロン様! それは一体――」

フェンリッヒ「おい、大天使! 貴様、これは本当のことなのか!」

フロン「本当です。全ては、初めから決めていました。フーカさんを救う方法はただ一つ。魔界での全ての出来事を消し去り、そして人として蘇らせる。初めから、これだけだったのです」

そう、命を救うことは、簡単に出来ることではない。真に命を救うことは、一つの命を散らせることでしか、出来ることでしかない。
かつて息子を救う為に、命を投げ出した女性が居た。

けれど、命一つで命を救うことは出来ない。数多の魔王の血を集め、巨大な魔力があって、それは初めて成し遂げられる。
 
その女性の夫は、素晴らしき魔王だった。彼を慕い、着いてくる者は数多居た。

そして、息子が病に伏せた際、妻の言われるがままに、血を集めた。戦わずとも、彼に血を差し出してくれる魔王は多く居たのだ。

全魔界最強と言われた、かのクリチェフスコイが、何故、バールを倒さず、『封印』と言う方法を取ったのか。


それは、死んでは意味が無いから。儀式に使うその血は、生きているからこそ、魔力が宿る。


309 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:46:50.18 ID:bQ8zSUYW0



全ての線が繋がった。全ては大天使の描いた一つの脚本。

そこに、踊らされた魔王の物語。そして、それは最大の悪役の死を最後に、幕を閉じる――。

ラハール「巫山戯るな! オレ様は、許さん! 自己犠牲など、オレ様は――!」

ラハールの目に涙が流れた。それは、かつて自分が『死んだ』時に流してくれたのと同じように。
悔いが無いと言えば、それはおそらく嘘になるのだろう。涙を流し、愛を知った彼と、共に歩む道を望んでいなかったわけではない。

けれど、もう遅いのだ。自分が間違った決断をしてしまったあの時から――。

フロン「さようなら、ラハールさん、エトナさん。願わくば、次なる生で、あなたたちと出会えることを――」

ラハール「待――」

ラハールの腕が、フロンに伸ばされた時だった。


「――させないよ、フロン」


その場に、聴こえた声。

それは穏やかで、静かで、安らかな声。



310 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:47:54.49 ID:bQ8zSUYW0
フロン「ラミントン……様……!」

フロンの頭上に、ラミントンが姿を見せた。
フロンにその座を譲り、一線を退いた、旧大天使が、羽を広げた。

フロン「……っ、ラミントン様、お引き下さい、これは、私のまいた種なのです」

ラミントン「そうだね、けれど、これは私の招いた罪でもある。ブルカノを葬らず、幽閉と言う処置を施したのも私だ」

フロン「ですが……――ッ!」

言いかけたフロンの身体が飛ばされる。地面に叩き付けられたフロンが、短く悲鳴を上げた。

ラミントン「フロン、君はまだ若い。全ては、老兵が背負うべきなのだよ」

フロン「ラミントン様! あなたは――」

ラミントン「大天使ラミントンがここに儀式を行う! 我が魂と、十五の魔力を代価に、ここに風祭フーカの生を蘇らせる!」

フロン「――ラミントン様!」

巨大な雷が、フーカに、そしてラミントンに落ちる。



311 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 16:50:43.67 ID:bQ8zSUYW0





ラズベリル「終わった……のかい?」

朧げな、蛍のような光が舞う中、消えかかるラミントンの姿が見えた。

フロン「ラミントン様、どうして……!」

その身体を抱きしめ、流れる涙を拭うこともせずにフロンが繰り返し言う。

ラミントン「フロン、楽になろうとしてはいけない。投げ出してはいけない。これが君の罪だ。多くの死を背負い、それでも生きること。それが、君の進みベき道なんだよ」

俯き、ぎゅっと、唇を結ぶ。そしてラミントンの瞳を見つめ、はっきりと返した。

フロン「はい、ラミントン様……!」

ラミントン「さようならフロン、魔王ラハール、どうか、彼女を任せるよ」

ラハール「……フン、言われずとも、こいつはほっておくと何をやるか分からんからな」

そしてラミントンの身体が光に消える。後には、静寂が訪れた。

そして、













フーカ「あれ……アタシ、今まで、何、してたんだっけ……?」

朝の柔らかな日差しを受けて、少女は目を覚ました。


312 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/14(金) 17:05:50.95 ID:bQ8zSUYW0



【次回予告】(読み飛ばし可)




ヴァルバトーゼ「ついに儀式を終え、フーカを救ったと思った我らに告げられた残酷な真実!」

アルティナ「まさか、地獄での記憶がすべて消えてしまうなんて……」

エミーゼル「けど、これがアイツにとってはよかったのかもしれないと思うと……」

ヴァルバトーゼ「なんと! こともあろうにアイツはイワシに関する全ての記憶を失ってしまったと言うのだ!」

エミーゼル「ってここでもイワシなのかよ!?」

ヴァルバトーゼ「このままではいかん! なんとしても、この俺が365日欠かさず教えたイワシの魅力を思い出させなくてはいかん!」

エミーゼル「そりゃそんだけ教えられたら嫌にもなるな……」

ヴァルバトーゼ「はっ! まさかアイツは魚偏に強いと書いて、『魚強(イワシ)』と読むことも忘れてしまったと言うのか!? 絶対に許せん!」

フェンリッヒ「それは忘れてもいいことだと思うのですが……」

ヴァルバトーゼ「俺は決して諦めん、そこにイワシがある限り!」


ヴァル・フェン・エミー・アルティナ「「「「次回! 魔界戦記ディスガイア4SS真・最終回! 闇を切り裂くその絆!」」」」


ヴァルバトーゼ「これで終わりにしてたまるか! まだお前には、伝えるべきことがイワシの魚群ほどあるのだ!」

フェンリッヒ「結局この場でもイワシでしたか……。やはり、流石我が主……」


デスコ「おねえさま、デスコは、デスコは……!」



315 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 20:57:01.35 ID:vz5LCFIa0
◆   ◆   ◆


ジリリリリリ……! カタンッ!

布団の中から手を伸ばして、目覚ましを止める。時刻は五時半。あくびをあげて、目を擦る。

柔らかな朝日がカーテンの隙間からほんの少し差し込んでいる。カーテンを大きく開けると、部屋いっぱいに暖かい光が飛び込んで来た。うん、今日もいい天気。
 
さて、じゃあシャワー浴びたら、朝ご飯を作ろうかな。どうせパパはアタシが言うまでは何一つ口にしないんだから。

冷蔵庫を開けると、中は悲しいくらい食べ物が無かった。あー、今日は帰りに買い物しないといけないかも。ま、でも最低限はあるかな。今日のお昼は購買ですますかな。

幸い卵と、数本のウインナーと、小玉のレタスが一つだけあったから、もう今日はこれでいいやと思うことにした。

目玉焼きは出来上がるのが早くていい。レタスも洗えばすぐにサラダに出来るのは優秀だわ。

テーブルに並べたら、いつものように、パパの研究室に向かう。ノックはする必要が無い。したって気付かないんだから。



316 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 20:57:59.54 ID:vz5LCFIa0
フーカ「パパ、朝ご飯出来てるから、食べなさいよ」

言って、またアタシは心の中で頭を抱えた。あー、もう何でアタシはこう素直じゃないかなあ。
 
ママが死んじゃって、アタシの家族と言えるのはもうパパしかない。たった一人の家族なのに、どうしてもっと仲良くしようと出来ないんだろう。

……一人?

風祭「おお、そんな時間か、ありがとう、フーカ」

フーカ「え、う、うん」

けれど、パパの態度が今までよりアタシを気にしてくれるようになった気がするのは、気のせいじゃないと思う。

風祭「じゃあ、頂こうか」

フーカ「う、うん、その前に顔洗って来なさいよ」

風祭「ああ、そうするよ」




317 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 20:59:54.83 ID:vz5LCFIa0
フーカ「じゃあ行って来るわね。あ、帰りに買い物するから少し遅くなるから」

風祭「おお、車に気をつけてな」



「あ、フーカ、おはよっ!」

フーカ「うん、おはよう!」

「うん、元気だね、もう身体は大丈夫なの?」

フーカ「完璧よ! 一年も寝てたなんて嘘みたい」


そう、一年。アタシが意識を失っていた時間。

一ヶ月前、アタシは病院のベッドで目を覚ました。
何がなんだか分からなかったけど、驚いたのは、パパが泣きながらアタシを抱きしめたこと。パパの涙なんて、ママのお葬式以来見てなかったのに。

そうして、アタシは一日で理解するには、無理がある話を聞かされた。


318 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:00:23.15 ID:vz5LCFIa0
こう見えても、アタシのパパは、世界的にも有名は博士だ。パパの技術で向上した機器は数えきれない。
 
そんなパパの技術を悪用しようとした人たちが、アタシを襲おうと……と言うか、襲ったらしいのだ。逃げている途中に、アタシはトラックに撥ねられて、生死の境を彷徨った。けれど、病院にも、アタシを襲った奴等が来ようとしたみたいで、安全のために、アタシは『死んだ』ことにされたと言うのだ。

『風祭フーカ』の葬式は恙無く行われて、ニュースにもなったらしい。そんな報道規制が行われて、アタシはこの世にいなくなった。

アタシが眠っていた一年間の間に、アタシを襲った奴等の組織は鎮圧されたみたいで、報道規制が解除されたようだ。

死んだと思ったアタシが帰って、泣いてくれた友達が一杯居た時は、アタシも涙が出た。

他愛ない会話を、続けて一ヶ月。アタシはこの日常が何より楽しい。

楽しい筈、なんだけど……。




319 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:01:17.14 ID:vz5LCFIa0
放課後、教科書を鞄に詰めて、席を立つ。

「フーカ、今日はどうすんの?」

フーカ「あ、今日は買い物してから帰るから」

「そっか、じゃあ途中まで一緒に帰ろうよ」

フーカ「うん、オッケー」


「……でさ、アタシ言ってやったのよ、主役はあたし以外あり得ない! って」

フーカ「アンタも相変わらずよねー」

他愛ない会話、平和な日常。そう、何よりもアタシが好きだったもの。

けど……。

 



320 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:02:53.71 ID:vz5LCFIa0
なんだろう、どうしてだろう。心に、ぽっかりと大きな穴が空いてしまったかのような気持ち。どうして……。

「フーカ?」

フーカ「う、ううん、なんでもないよ」

「? ならいいけどさ」

どうして、悲しい気持ちになるんだろう……。


フーカ「じゃ、アタシこっちだから」

「ん、じゃあね、フーカ!」

フーカ「うん、また明日。オーディション頑張ってね」

「ふふ、今日こそ主役の座を射止めてやるわ、主役はあたししか居ないんだから……!」

フーカ(何故か絶対に報われない気がするのは気のせいかしら……)




321 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:03:39.78 ID:vz5LCFIa0
黄昏色に染まる坂道を、ぼんやりと歩く。二台の自転車がアタシのよこを通り過ぎた。
空はこれ異常なく綺麗な青色で、白い雲がゆっくりと泳いでいる。珍しく、都会には珍しい蝙蝠が数羽飛んでいた。

フーカ「へえ、こんな所にも飛んでいるんだ」

坂道を下って、商店街に行く。流石に人が多い。

フーカ「うわ、これは大変そうだわ――」

そうぼやいて、顔を上げた時――、

フーカ「え……?」

その中に、見えた影。

気がつくとアタシは走り出していた。



322 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:05:03.99 ID:vz5LCFIa0

アルティナ「フーカさん、楽しそうですね……」

エミーゼル「うん、そうだな。忘れてたけど、アイツ、本当は人間の子供だもんな……」

フェンリッヒ「……我が党を去った奴のことなどいつまでも気に掛けるな。俺たちにはまだやるべきことが多々あるのだ」

アルティナ「……ッ! そんな言い方!」

ヴァルバトーゼ「よせ、アルティナ」

アルティナ「……ヴァルバトーゼさん」

ヴァルバトーゼ「お前の気持ちは分かる。しかし、フロンの言う通り、これが、アイツのあるべき姿なのだ」

アルティナ「けど……こんなの、残酷です。何よりもデスコさんが可哀想で……」

ヴァルバトーゼ「…………」




323 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:08:46.08 ID:vz5LCFIa0

ヴァルバトーゼ「デスコ、また人間界を見ていたのか」

人間界の映像を見ることの出来る水晶の前で、デスコはじっと座っていた。その映像には、楽しげに笑うフーカが映っている。

デスコ「……ヴァルっちさん、今日は遠征、行かないデスか?」

ヴァルバトーゼ「今日は無い、休息も必要だからな」

デスコの横に、ヴァルバトーゼが座り込む。しばらく、静かな時間が流れた。やがて、デスコが、か細い声で、話す。

デスコ「ヴァルっちさん。デスコは前、おねえさまに言ったんデス。おねえさまが、デスコたちのこと、皆忘れてしまっても、デスコたちが覚えているから大丈夫って。そう、言ったんデス」

ヴァルバトーゼ「そうか」

デスコ「けど、デスコは、やっぱり悪い子デス」

デスコの両目から、細く涙が流れ、地面に落ちて行く。

デスコ「デスコは、おねえさまの笑った顔が大好きデス。そんなおねえさまの顔を見ているだけで、デスコは幸せな気持ちになってたデス」



324 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:10:12.67 ID:vz5LCFIa0

ヴァルバトーゼ「そうか」

デスコ「けど、デスコ、気付いてしまったデス。それは、デスコがおねえさまの隣に入れるから、幸せだったのデス」

ヴァルバトーゼ「そうか」

デスコ「おねえさまが笑顔で居る為なら、どんなことだってすると言ったのに、デスコは、やっぱり悪い子デス」

ヴァルバトーゼ「……そうか」

デスコ「デスコは、デスコは……悪い子デス」

ヴァルバトーゼ「――当たり前だ」

デスコが顔を上げると、ヴァルバトーゼははっきりとデスコの瞳を見つめ言った。

ヴァルバトーゼ「お前は悪魔だ。欲望には忠実であるべきだ。言え、お前は、何を望んでいるのだ!」

デスコ「……デスコは――」


――知らないわよ、こんなグロい触手! アタシの妹なんかじゃないって!

――アタシの妹になりたいの? だったら、精一杯アタシに尽くしなさい。

――カラスが白いっていったら白いペンキで塗りつぶすんでしょ?

――ほら、しっかりしなさい、ラスボスになるんでしょ?



――アタシの妹に何すんのよ!




325 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:11:18.65 ID:vz5LCFIa0


デスコ「デスコは……デスコはおねえさまの……おねえさまの隣に居たいデス……。他の誰でもない、デスコが、おねえさまの一番になりたいんデス!」

声を上げて、デスコは泣いた。
 
ずっと押し殺していた想い。ずっと縛り付けていた心。けれどもう偽ることは出来なかった。

デスコ「おねえさまの隣は、デスコだけのものなんデス!」

分かってる、それがフーカにとって、正しい道ではないことなんて。けれど、その想いはもう止めることは出来なかった。

好きで、好きで、好きで、片時でも離れたくないただ一人の人。

泣きじゃくるデスコの頭を、ヴァルバトーゼは静かに撫でる。

ヴァルバトーゼ「ならば行け。思うがままに行動しろ。それが、俺の知る、風祭フーカの妹だ」





326 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:12:28.00 ID:vz5LCFIa0

◆   ◆   ◆

フーカ「ハァッ、ハァッ……!」

息が切れる。汗が額を伝う。それでも、アタシは走り続けた。
たしかに見えた、小さな影。あれは、あれは――。

気がつくと、人気の無い路地に居た。
日は沈みかけ、夕日の影に、世界は昏くなっている。

暗がりの中、そこに立つ、小さな影が、アタシに振り向く。

真っ赤なツノと、大きな瞳。
背中に見えるしっぽと触手は、コスプレと思うにはあまりにもリアルで。

グロテスク。そうとしか思えない姿。アタシが思う、カワイイとまったく逆方向のモノ。

けれど、

フーカ「あ……ああ……」

気がついたら、アタシの身体はその子をぎゅっと抱きしめていた。力一杯、絶対に、離さないように。
涙が溢れて来た。心の底から暖かい気持ちが溢れてくる。



327 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:13:59.48 ID:vz5LCFIa0

なんで? どうして?

分からない。

けれど、ずっと探していたピースが見つかったように、アタシの中に、それははまった。

フーカ「うっ……ぐ……」

言葉が出て来ない、ただ、嗚咽だけが口から漏れる。
そんなアタシに、その子は言った。

同じように、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、それでも、とびきりの笑顔で、その子は言った。


デスコ「初めましてデス、おねえさま!」







328 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:22:39.39 ID:vz5LCFIa0




――闇が、記憶を消してしまっても、一人と一人の間に生まれた、絆は消えない。




天使兵1「大天使様、葬送の準備が整いました」

フロン「ありがとうございます。……では、行きましょう」

天使兵2「……彼女たちの魂はどこに行くのでしょうか? 安らかに、眠ることができるのでしょうか……」

フロン「大丈夫です、それに、眠るのはほんの一瞬。すぐにまた、次の世界に旅立つでしょう」

天使兵2「……そうですね、きっとまた、あなたのもとへと来るでしょう」

フロン「その時は、必ず、感謝と、謝罪をしなければなりませんね」

ラハール「そうだ、その時が来るまで、もう二度とアホな真似をしないよう、ずっと見張っていてやるからな!」

エトナ「えー、それってプロポーズですか、殿下ー?」

ラハール「あ、アホか! オレ様はあの大天使との『約束』を受けているだけだ!」

フロン「ふふ、相変わらずですね、二人とも」







329 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:23:59.20 ID:vz5LCFIa0




――絆は、他者と交わるほど、大きく、そして、強くなる。




アクターレ「坊ちゃん、実はまた魔界大統領の座が奪われちゃったみたいなんですけど……」

エミーゼル「ふざけんな! なんでそうなんども何度も奪われるんだよ!

アクターレ「いや、お恥ずかしい、ということで、ちょこーっとそちらさんの手を借りたいなーと」

エミーゼル「ったく……。まあお前からがやっている内が一番平和だからな、今度だけだぞ!

アクターレ「マジ感謝でーすっ! お礼にオレ様のスペシャルライブを!」

エミーゼル「しなくていいっ!」






330 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:25:21.57 ID:vz5LCFIa0

 



――そして、新たな物語を紡いで行く。




デスゼット「全く、結局人間界にいたのは一ヶ月か! 心配して損したよ!」

デスコ「でも、結果的にパパの所に帰れるじゃないデスか」

デスゼット「ま、そこは感謝するけどね」

アルティナ「……思い出した訳じゃ、ないんですよね」

デスコ「……それでも、おねえさまは、選んでくれたんデス」






331 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:29:21.33 ID:vz5LCFIa0





――その中で、選べる道は、いくらでもある。




ヴァルバトーゼ「フッ、すっかり調子を取り戻したようだな」

デスコ「はいデス! デスコ、いつでも行けちゃうデス!」

デスゼット「アタシが参加するのは今回だけだからな! これが終わったら、すぐにパパの所に帰るからね!」

アルティナ「まあ、今回だけでもとても頼もしいですわ」

フェンリッヒ「閣下、本日はアクターレがまた魔界大統領の座を奪われたそうなので、その原因調査を行います」

ヴァルバトーゼ「うむ、皆のもの、心してかかれ! 終わった後は、この俺が厳選した、再考のイワシを喰わしてやる!」

アルティナ「相変わらずですわね、ふふっ、変な吸血鬼さん」



332 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:30:23.79 ID:vz5LCFIa0



――だから、アタシは選んだ。




「ちょっと、待ちなさいよ! アタシを置いて行くつもり?」



333 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:31:22.76 ID:vz5LCFIa0





――アタシだけの、とびっきりの悪夢を。



 
デスコ「一緒に行きましょう、おねえさま!」

フーカ「当たり前でしょ、デスコ!」




この夢はもう、二度と覚めることはないだろう。



334 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/15(土) 21:34:41.42 ID:vz5LCFIa0

これにておしまいです。
初めてSSを書きましたが、親切にアドバイスをしてくれた方たちのおかげで、最後まで楽しく書けました。

ディスガイアのSSは少ないので、もっと増えて欲しい所です。
拙い話でしたが、この無駄に長い話をここまで読んで下さった方がいましたら、ありがとうございます、とても嬉しいです。


335 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/15(土) 22:07:05.37 ID:HEv55WuHo
乙でした
アサギちゃんらしき人物が居たような…


336 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/15(土) 22:28:33.25 ID:VmYxCvGIo

ゲームではなかった暴君復活が熱かった


337 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga]:2014/03/16(日) 23:57:06.62 ID:TDkS665w0
>>335
ありがとうございます!
公式の年齢では17歳の彼女ですが、まあそれはそれと言うことで…。

>>336
ありがとうございます!
閣下に大きな見せ場を作ってあげたかったので、暴君の姿を出させて貰いました。DLでのあのとんでもない強さが再現出来ればと思って書きました。


24時間経ったので、HTML化の依頼をしようと思います。
読んでくれた方、アドバイスをくれた方、ありがとうございました!


転載元

デスコ「初めましてデス、おねえさま!」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391376322/







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