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男「明日がこなければ」

2015/02/18 06:00 | CM(0) | 創作・男女系 SS
1 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:48:34 ID:Eom

女「久しぶりですね。わざわざ来てくれるなんて」

男「告知、見たからな。……こんなことになるまで会いに来なかったくせに、何をいまさらとは思うけど」

女「いいんですよ。たぶん、仕方ないことだったから」

女「それにほら。わたし、会いに来ないでくださいって言っちゃいましたし」

男「あれは強がりだろ。わかってたのに、俺は……」

女「もう。いいじゃないですか、半年も前のことなんですし。年下のわがままは聞いてあげるものですよ?」

女「――――それに、ほら。一緒にいると、どうしても手を伸ばしたくなりますからね」

女「こうして会ってくれただけで、御の字です」

男「それだけで終わらせるつもりはない」

男「なあ。俺と一緒にいてくれないか?」



2 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:49:36 ID:Eom

女「――――」

女「男くん。わたしの話、聞いてました?」

女「わかってくれると思ったんですけどね。一緒にいたら胸が苦しいって、そう言ってるんですよ?」

男「わかってる」

男「俺のわがままだってことも、わかってる」

女「だったら、」

男「それでも頼む。俺と一緒にいてほしい」

女「……、何かあってからじゃ、遅いんですよ?」

男「それくらいの覚悟はしてる」

女「わたしはそんな覚悟できません」

男「それでも、だ。最後まで、俺と一緒にいてほしい」



3 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:50:06 ID:Eom

女「…………はあ」

女「後悔はしないんですね?」

男「ああ」

女「わたしを傷つけることも、わかってますよね?」

男「……ごめん」

女「ならいいです。申請出してみます……許可、出ました」

女「ちょっと待っててください。外出用の服をもらってきます」


4 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:50:44 ID:Eom

男「派手だけど、似合うよ。これまで見たことない系統の服だから、なんか新鮮だな」

女「服飾規制がなければ、こんなの着る機会はありませんでしたよ……」

女「かなりどぎつい赤です。本当に似合ってます?」

男「誰よりも似合ってるよ。女はさ、その……美人だから、余計な」

女「へえ、男くんも成長しましたね。面と向かって女性を褒められるようになるなんて」

男「かなり無理してるだけだよ……女に言うのでさえ、歯が浮いちゃいそうだ」

女「そうですか。じゃあこれから、たくさん言ってくださいよ?」

女「今まで言えなかった分と、これから言いたかった分と」

男「はは、胃に穴が空くかも」

男「だが頑張ってみるよ。思ってることを口にするだけなんだ、難しいわけない」



5 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:51:24 ID:Eom

女「外に出たはいいですけど、どこか行きたいところでもあるんですか?」

男「まずは地元に行こうと思ってたけど。帰るの、嫌か?」

女「んー。複雑なところですね」

女「とりあえず、人の多い場所は避けたいです。迷惑かかりますし」

男「確かにな。ここ、行きは混んでて大変だったのに、今は皆が道を譲ってくれるし」

男「モーゼが海を割ったあれを思い出す」

女「そりゃそうですよ。男くんだって、警告音が出てるんじゃありませんか?」

男「女と会う前に切ったよ。やかましくて仕方ないし」

女「それはそれで危なっかしいですけど……わたしは警告が出ますから、そんな離れないようにしてくださいね」

男「わかった」


6 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:52:36 ID:Eom

男「今のうちに聞くけど、行きたいところはないのか? 要望があるなら行き先を変えるし」

女「んー、久々に実家まで行きたいとは思うんですけどね。ただ、知り合いにはあまり会いたくないというか」

男「なら補正しながら歩くか。俺としては、こんだけ美人な女を見せびらかしたくもあるけどな」

女「あ、そんなこと言っていいんですか? 他の男性がわたしを口説いちゃうかもしれませんよ?」

男「よし、誰もいないルートを探して歩くぞ」

女「男くん、相変わらず単純ですねー。扱いやすくて楽ちんです」

男「そろそろ付き合い長いのに、この関係だけは変えられなかったか……」

女「まあまあ。そう悪いものでもありませんよ?」

女「昨日と今日が等記号になることを、多くの人が求めてるって統計に出てましたからね」


7 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:52:55 ID:Eom

AI「乱数を確認」

AI「運命修正開始」

AI「完了」


8 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:54:21 ID:Eom

女「おおっ。もう半年が経ちますけど、まだ残ってるんですね」

男「再建計画は……まだ一〇〇日以上あるな。どうする、入るか?」

女「んー。でもここ、わたしの家じゃないってタグついてますし」

女「そういえば、家の中ってどうなってるんですか?」

男「家財関係なら女の親戚が引き取ったみたいだな。今はもうがらんどうになってるはずだけど」

女「ちぇ。男くんがくれた指輪くらい、しようかなと思ってたのに」

男「……うちにあるぞ、あの指輪」

女「え、どうしてです?」

男「頭を下げて、どうにか許してもらった。ほら、情報タグを見れば、俺が贈ったものだとはわかるし。……高いものじゃないぶん、何とかなった」

女「値段は重要じゃないんですよ。あの意気地と勇気のない男くんがくれたってことが大事なんです」

男「どうして俺、そこまでこき下ろされなきゃいけないんだよ」

女「自分の胸に聞いてください」

女「とりあえず、男くんの家に行きましょうよ。指輪、もう一度プレゼントしてほしいです」


9 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:55:05 ID:Eom

男「お待たせ。ほら、指輪」

女「うふ」

男「うふって」

女「も、もう、いいじゃないですか! 私物の一切が持ち込み禁止だったので、この指輪、泣く泣く諦めたんですよっ?」

女「こうしてまたわたしの手に戻ってくるなんて……感激です」

男「良かったな。それじゃ手を出せよ」

女「はい?」

男「指輪、つけてやるから」

女「――――」

女「ダメです。そんなこと、絶対にしないでください」


10 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:55:42 ID:Eom

男「そう嫌がるなよ。俺がやりたいだけなんだ」

女「男くん。箱だけ開けてください。自分で取りますし、自分で指にはめますから」

男「でも、これをプレゼントした時はさ」

女「男くん」

男「……悪い、わがまま言った。ほら」

女「ありがとうございます」

女「――――うふ」

男「そのうふって笑い、やめないか?」

女「細かいことは気にしちゃいけません」

女「……こうして指輪をはめてみたら、何というか、ちょっと自分を取り戻したって感じです」

男「そっか」


11 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:56:20 ID:Eom

女「ところで男くん、わたしの好きなところに連れてってくれるんですよね?」

男「そのつもり」

女「ならわたし、真っ青な海と、満点の星空と、遠い地平線に沈む太陽が見たいです」

男「おお、ずいぶん要望があるな」

女「ダメでした?」

男「まさか。たださ、これまで自分のやりたいこととか、優先して来なかっただろ?」

女「そうですね」

女「……まあ、最後ですし」

男「ああ……そっか」

女「男くんこそ、覚悟してくださいよ?」

女「わたし、明日には死んじゃうんですから……それまで、たくさんワガママ言いますからね?」


13 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:57:26 ID:Eom

    ◇海

女「季節外れですから、ほとんど人がいませんね」

男「静かな海ってのもいいもんだろ?」

女「ええ」

女「男くんはこんな話を知ってます?」

女「地球の気候を完全に掌握して、快適な世界を維持できるようになっても、日本人は夏の海に憧れるみたいです」

男「ああ、それか。でもそれは」

女「ええ。たった二〇年くらいで崩れ始める価値観だとか」

女「若い人ほど、いつでも入れるようになった海に順応してしまう」

女「夏といえば海、って考えは骨董品になるって聞きました」

男「特定経過予測、な。でも予測は予測だろ?」

女「外れたことがない予測でも、男くんはそう思います?」


14 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:58:32 ID:Eom

男「夏の海に憧れるのってさ、うだるくらい照りつける日差しや、集まった人の熱気に影響されると思うんだよ」

男「だからいつでも入れるようになった海は、きっと何だか味気ない」

男「価値観が変わったっていうより、価値を失ったんじゃないかなって思うよ」

女「……うふ」

女「男くんって意外とロマンチストですよねー」

男「うっさい」

女「せっかくかっこいいこと言ったのに、それじゃ子供っぽいですよ?」

男「俺はまだ大人になりきれないから、こうして海まで来てるんだよ」

女「わたしが大人になれないから、海に連れてきてほしいと思ったみたいに?」

男「たぶん、な」


15 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:59:14 ID:Eom

男「寒くないか?」

女「まだ大丈夫ですよ。もうちょっとしたらダメかもしれませんけど」

男「冬の海だしなあ」

女「普通の恋人同士だったら、ここでくっつきながら暖をとったりするんでしょうけどね」

男「やってみるか?」

女「やりませんー。わたしをそんな安い女と思われては困りますよ?」

男「ウチに宿題をやりに来てたころ、さんざん俺を枕にした女がそれを言うのか……」

女「やー。手を出してこないとわかってる相手なので、つい油断したと言いますか」

男「今からでも襲うぞこら」

女「そんな勇気もないくせにー」

女「……あ、本当に襲わないでくださいよ? わたし、泣いちゃいますから」


16 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)20:59:50 ID:Eom

女「冗談はさておき、お腹がへりましたね」

男「海の家がやってたらいいのにな」

女「商売時期を間違いすぎて、どう考えても潰れちゃいますね」

男「かといってお店に入るわけにもいかないからな。お持ち帰りできそうな、ファーストフード以外の店がないもんかな」

女「ずいぶん贅沢な要求です」

男「ここまで来てハンバーガーというのもがっかりだろ?」

男「――ん、いや、あるみたいだな」

女「おお、調べてみるものですねー」

男「焼きそばだけ持ち帰れるみたいだ。海を見ながら食べようか」

女「やっぱり海といえば焼きそばですよね」

男「おおざっぱな味が魅力だよな」


17 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:00:23 ID:Eom

女「安っぽい透明なパック、割り箸、ソースの香り……はわかりませんけど。うふ、あのお店はロマンがわかってますね」

男「けどそれにしたって寒いよな。いっそたき火でもしてやろうか」

女「おー、男くんってば悪い人ですね」

男「うぐ……っ」

女「? どうしました?」

男「な、なんでもない。ちょっと罰則の対象になったみたいで、痛覚刺激されただけ……」

女「え? まさか本当にたき火しようとしたんですか!?」

男「俺はいつだって本気だ」

女「何やってるんですか、もう……大丈夫ですか? 痛みは治まりました?」

男「一瞬だけだったから平気だよ。かなり痛かったけど」

女「ならいいです。でも心配させないでくださいよ」

女「だってほら。もしかして、って思っちゃいますし」


18 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:00:51 ID:Eom

男「そのもしかしてが起こるようなら、外出許可なんて取れないだろ?」

女「わかりませんよ? 未来にはいつだって誤差が含まれる、って予測してる人工知能自体が言ってるんですし」

男「だったらいっそ、別のもしかしてでも起きてほしいもんだよ」

女「例えばなんです?」

男「明日が永遠にこない、とかな」

女「……ダメですねえ、男くんってば」

女「そういう、変なことばかり言って」

男「泣くなよ」

女「まさか、泣いてませんよ。わたしもきっと罰則に触れちゃって、涙腺を刺激されたんです」

男「そうだな」

男「……胸、貸せなくてごめんな」


19 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:01:26 ID:Eom

女「もう平気です。体罰を乗り越えました」

男「確かに体罰ではあるがな……」

男「よし、じゃあそろそろ移動するか」

女「あれ? 夕焼けや星空もここで見るんじゃないんですか?」

男「地平線って言っただろ? 海で夕焼けを見たら水平線だし」

女「でもほら、思いつきで言ったことですし……わたしはここで構いませんよ?」

男「俺にも意地ってものがあるんだよ。車は手配してあるし、早く行こう」

女「もう、男くんってこんな時だけ強引なんですから」

男「強引じゃない時ってどんなだよ」

女「わたしと二人きりだった時じゃないですかねー」

男「……置いてくぞ」

女「短気な人は嫌われますよ?」


20 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:02:01 ID:Eom

女「ところで、今度はどこまで連れて行ってくれるんですか?」

男「放棄特区だな。あそこなら地平線だし」

女「はい? いやいや、入れるわけないじゃないですか」

女「空気の汚染度合いが世界でもワースト二位とか三位らしいですよ?」

男「でも行き先に設定できたぞ」

女「そんなはず……男くん、一体どんなコネを手に入れたんですか?」

男「コネがあろうが、黙認されてなきゃ痛覚刺激どころじゃないだろ」

男「最後の計らいじゃないか」

女「そんな人情味ある判断、されますかねえ」

男「どっちにしろ、行けるんだから行くだろ。これがバグだろうが、計算された運命だろうがな」


21 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:02:53 ID:Eom

    ◇放棄特区

女「うわー、見事に何もありませんね」

男「資源になりそうなものは、根こそぎ特区外に運んじゃったんだろうな」

女「……男くん、体は大丈夫ですか?」

男「中和剤を飲んだし、夕焼けを見る時間くらいはな」

男「そういう女こそ平気か?」

女「わたしはあれですよ、ほら。痛覚は取り除かれてますし」

女「感覚器はかなりぐちゃぐちゃに調整されてますからねー。ちょっと空気が悪いくらいじゃびくともしませんよ?」

女「それに明日には死んじゃいますし、心配する理由もないです」

男「心配するに決まってるだろ」

男「女は今、生きてるんだから」

女「……」

女「まったくもう。どうしてそういうこと、もっと早くに言えなかったんでしょうね」


22 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:03:54 ID:Eom

男「それより、女。もう日が沈むぞ」

女「――――良かった。わたしの目でも、まだ夕焼けは綺麗なままですね」

女「わたし、夕焼けって好きなんです。一日の終わりだって思うと悲しいですけど、明日につながってるんだって思うとわくわくします」

女「わたしがいない明日だとしても、世界はこんなにも綺麗だから」

女「きっと男くんも幸せになれるって、思いたくなりますよ」

男「そうだな」

男「俺はさ、今この時の幸せを大事にして、のんびり生きてみるよ」

男「どんな時も……いや、時々でいいな、女のことを思い出しながら」

女「そうしてください。あんまりわたしの思い出にひたられても、恥ずかしくなっちゃいましす」



男「よし、最後は星空だな」

女「また移動するんですか?」

男「夕焼けはにじむくらいで何とかなったけど、空気が綺麗なところじゃなきゃ星空は厳しいだろ」

男「どこか、人がほとんど住んでない山奥にでも移動するよ」

女「今日だけでずいぶん遠くに行こうとしますね、わたしたち」


23 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:04:26 ID:Eom

女「それじゃあ車に戻りましょうか」ガクッ

女「……あ、れ」

女「変、ですねえ。足、動かそうとしてるんですけど」

男「女!」

ガシッ

男「大丈夫か!? 体、他に異常は?」

女「……」

女「…………!」

女「触らないで! 離れてください!!」

男「っ」

女「そんな、どうして……なんで触っちゃうんですか……!」

女「ずっと我慢してたのに! 男くんまで感染したら、わたし……っ」


24 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:04:54 ID:Eom

男「…………大丈夫だよ、きっと」

男「これくらいのこと、予測できなかったわけがない」

男「それかさ、今くらいの接触なら、きっと感染はしないんだよ」

男「だからこうして、ここまで連れてくる許可も出てる」

女「そんなの、何の保証にもならないじゃないですか……」

女「どうして……? だって、男くんまで同じことになったら、わたし……」

男「ほとんど服にしか触ってないから、大丈夫だって」

女「……男くん、帰りましょう」

女「今すぐ検査して、何か対処してもらえば、発症しないですむかもしれません」

女「だから」

男「星空を見に行くんだ。その後な」

女「そんなのどうだっていいんです!」

女「……ねえ、男くん、帰りましょうよ」

男「帰らない」


25 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:05:29 ID:Eom

男「どうしてもっていうなら、俺は今この場で女にキスをする。抱きしめる。襲う」

男「もう手遅れになった後なら、急いで帰る理由もなくなるだろ?」

女「……」

女「……バカ」

女「帰ったら、すぐ検査を受けてください」

男「わかった。約束する」

男「……立てるか?」

女「何とか」

女「ちょっとはしゃぎすぎたんだと思います。自覚はないですけど、体はボロボロですしね」

男「ゆっくり立てよ。俺は手を貸せないんだから」

女「大丈夫です。わたし、同じ失敗はしない女ですよ?」


26 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:06:32 ID:Eom

    ◇山奥

男「おお、よく見えるな」

女「ですね。ここまで連れてきてもらったかいがありました」

男「……昔はさ、もっと星の数が少なかったんだと。排気ガスで空気が汚れて、都内じゃ数えるほどの星しか輝いてなかったらしい」

女「どれだけ前の話なんですか?」

男「さあな。歴史の教科書でも見なきゃわからないけど、そこまで昔の話じゃない」

女「すごいですね」

女「過去の過ちを取り戻すって、とても大変なことだと思います」

男「だな。努力を口に出すのは簡単だが、実際にやるのは想像以上に難しいことばかりだ」

女「そんなことを語ってしまう男くんは、どんな努力をしたんですか?」

男「……ここだけの話な」

男「女を助けられるはずだって、うぬぼれてた」


27 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:07:08 ID:Eom

女「そうでしたか」

女「……なら、わたしも似たようなものですね」

男「女も何かしてたのか?」

女「元気になって、男くんとまた会いたいなって」

男「そっか」

女「ええ」

男「――――けどさ。それって本当に間に合わないのか?」

女「え?」

男「女は明日、死ぬ。でもそれは病気じゃない、人間の手で殺されるんだろ」

男「逃げて、その間に何か解決策が見つかれば、さ」

女「……うふ。そうなったらいいですね」

男「女もそう思うか? だったら」

女「でもごめんなさい。わたし、叶わない夢を見るのは嫌なんです」


28 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:07:43 ID:Eom

男「でも……いや、悪い。そうだよな」

女「いいんですよ。わたしはたぶん、納得してます」

女「わたしが生きてることで人類が滅ぶなら……男くんが死んじゃうなら、そこまでして生きる必要はないなって」

男「……特定経過予測」

女「信じないわけにはいきませんよね。だって、戦争と放棄特区のことまでぴったりと当てたんですし」

男「まぐれかもしれない、けどな」

女「まぐれだとしても、あの予測がなければ世界はもっとひどくなってましたよ?」

女「人間の住むところなんて、きっとなくなっていました」

男「……いっそ、その方が良かったよ」

女「どうしてですか?」

男「未来がどうなるかわからないなら、女が明日を生きてる可能性もあったんじゃないかなって」


29 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:08:30 ID:Eom

女「でもわたし、これで良かったとも思いますよ」

男「どうしてだよ?」

女「男くんが、わたしをここまで連れてきてくれました」

女「寒いって言いながら、二人で海を見るのは楽しかったです」

女「夕焼けを見たあと、触っちゃ駄目なのに、男くんがわたしを助けようとしてくれて嬉しかったです」

女「星空の下で、わたしに逃げようって言う姿を見ると、やっぱり男くんが好きなんだなって笑顔になれるんです」

女「だから大丈夫です。わたしはもう、満足してますから」

男「それでも納得なんてできるかよ!」

男「人類がなんだ! 女を生かすためなら何度だって滅びればいいじゃねえか!」

女「……叫んだら、落ち着きました?」

男「うるさい」

女「もう、いい年してぼろぼろ泣いちゃだめですよ? 男の子なんですから」

男「わかってる……今だけは泣かせてくれよ」


30 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:08:59 ID:Eom

……


女「そろそろ、行きましょうか」

男「ああ。もう泣き言なんてこぼさない」

男「女、行こ――うぐっ!?」

女「男くん?」

男「ぎっ……がっ!? くそ……なんなんだよ!」

女「男くんっ! そんな、感染したんですか!?」

男「ち、違……これ、は……」

女「ま、待っててください! すぐ連絡しますからね?」

男「やめろ!」

女「っ」

男「連絡は、するな……くっ、こんなの、どうってこと……」

女「――――男くん。まさか、逃げようとしてるんですか?」


31 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:09:40 ID:Eom

男「んぎっ……くっ、はっ……そう、だよ」

女「そんなこと考えないでください! やめてっ。電気信号だけの痛みだって、人は死んじゃうんですよ!?」

男「こんなの……痛覚だけの、問題だろ?」

女「お願いだから、やめて……ねえ、やめましょう? わたしは大丈夫です。苦しくなんてないんですよ?」

女「まるで眠るみたいに、死ぬときはあっという間なんです。だから、自分を傷つけないで……? ね?」

男「いや、だっ」

女「男くん! わがままを言わないでください!」

男「だって、なら女は、どうして泣いてるんだよ……っ」

女「それは……」

男「俺は……女、を……」

男「……」

女「――――男くん。あなたはどうして、そんなにバカなんですか……!」


32 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:10:01 ID:Eom

女「ねえ、わたしがここにいることはわかってるんですよね?」

女「ならすぐに来てください。逃げも隠れもしませんから」

女「だから……」

女「早く、わたしを殺して。男くんを助けて」


33 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:10:35 ID:Eom

 目が覚めた時、俺はしゃべれなくなっていた。

 心因性のものらしい。痛覚を刺激される時間が長かったからで、一時的なものだという。

 ……日付を見ると、女を連れて逃げようとしたあの時から、二日が過ぎていた。

 女はもう、この世界のどこにもいないみたいだ。

 俺は結局、子供みたいなわがままを押し通そうとして、女を看取ることさえできなかった。

 あまりにもバカらしくて、笑えてしまう。

 そんな俺のところに、指輪が届けられた。

 女にプレゼントした安物だ。

 温もりがとっくに失われた指輪を握りしめながら、味気ない天井を見上げる。

 明日、俺は天井を見飽きたと思うことができるだろうか。


34 ◆ AYcToR0oTg :2015/01/11(日)21:11:04 ID:Eom
以上です。
みなさんの明日がよい一日になればいいですね。


転載元

男「明日がこなければ」

http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1420976914/l10






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